2001.03.14 大阪朝刊 13頁 家庭(全1214字)(010314K00913131)
大阪府堺市  白畠多賀孝(たかこ)さん(54)
 昨年の8月ころ、「松子さん」と呼ばれていた。松子は、大阪市中央区のエル・シアターで上演されたミュージカル「荷車よ北北西に進路を取れ!」の主人公。演じたのは旗翔子。これも公演に合わせてつけた芸名。今も、いつになるかは分からないが、次の公演を目指して、月2回けいこをしている。
50歳以上の未経験者
 夫(55)は開業医。事務の手伝いなどをして、舞台とは無縁の生活だった。きっかけは「50歳から100歳の未経験者の方、ミュージカルやりませんか」――音楽劇教室「発起塾」(大阪市天王寺区、電話0120・86・2615)の塾長で、演出家の秋山シュン太郎さんの呼びかけ。1999年9月のことだった。
私が若手でいられる
 「『50歳から100歳まで』に心を動かされました。私が若手でいられる、ついていけそう」。4年前、義母が亡くなり、子どもも大学に入り、「気が抜けたような」毎日を送っていた時だった。50歳から81歳まで43人が集まり、発声練習から始まった。「あめんぼあかいなあいうえお」。歌は苦手だったが、秋山さんの一言「誰もおらへん、頑張って」で、主役に決まった。自家用車の中でせりふを言ったり、自主練習にも精を出した。
目標に向かう仲間同士年齢を意識させない
 白畠さんは主役の「松子」になりきった
=昨年8月の発起塾の公演から  
 感動、鳴りやまぬ拍手
 本番の劇場は客席が800もあり、有料公演。上演時間約2時間。「できるやろか、と思ったが、やればできるもんだった」。フィナーレ。鳴りやまない拍手のなか、「あーやった、ミスなく思った通りできた」と感動した。夫と子ども3人も来てくれた。夫は「よーあんなんやったなあ」と言ってくれた。夫は月2回の練習の日、夕食の時間に妻が自宅にいないのが不満だったらしい。それが、初公演を見て以来、なくなった。
 初公演後もほとんどのメンバーが活動を続けている。発起塾も京都や和歌山などに広がり、和歌山公演では手伝いに行った。15日には福島県いわき市まで“出張”する。「私とは20歳以上違う人もいるが、全く違和感がない。一つのことに向かって取り組む仲間だということが、年齢を意識させないんです」という。
 前を向いて生きる
 発起塾は、全員に今少しのレベルアップを求める。「踊りも歌も発声も、出来る出来ないではなく、きちっと教えてもらえるのが楽しい。これからどういうふうに生きるか。前を向いて何かやろうとしたら年は関係ない」。ミュージカル初体験と劇団仲間を見て、こう思う。 【大西康裕】
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