ミュージカルの舞台に向けて、楽しくレッスンに励む発起塾のメンバーら(大阪市天王寺区で)

ミュージカル 軽やかステップ
 大阪市天王寺区にあるNPO(非営利組織)法人「発起塾」のレッスン場。中高年の男女約二十人が、インストラクターの声に合わせて、軽やかにステップを踏む。
 「いちにーさんしー、手をおろして、足を右、左!」
 バックに流れるのは明るいゴスペル音楽。自然に体が弾んでくる。
 発起塾は、五十歳以上のシニアを対象にしたミュージカル劇団だ。五年前、演出家の秋山シュン太郎さん(46)が「中高年が年齢を気にせず、ダンスや演劇にチャレンジできる場を」と呼びかけて、大阪で設立した。現在は京都や神戸、広島など七校に増え、メンバーは総勢二百七十人にのぼる。
自分が楽しく 海外でも公演
 すべて初心者で、一年かけて基礎からダンスや歌、演技を学ぶ。レッスンは月一、二回のぺース。後半は成果を発表する舞台に向けて、作品を仕上げていく。振り付け担当のインストラクター橋本優子さん(37)は「簡単で見栄えがするけれど、ちょっと練習しないとうまくできない。そんな微妙な動きを駆使しています」と話す。
 一期生、川口義治さん(66)(大阪府和泉市)は、数少ない男性の一人。「川ジイ」の愛称で親しまれる。六年前に定年退職。若いころにあこがれた芸能の世界に、思い切って飛び込んだ。最初は体が動かず、せりふも覚えられなかったが、とにかく楽しかった。 初舞台は、コンビニエンスストアを訪れた夫婦が、店先で大げんかをはじめ、店員や客を巻き込むドタバタ劇。夫役だった。最後に仲直りして妻に「ありがとう」。その瞬間、会場から割れるような拍手が起こり、高揚感を味わった。「体が動く限り続けたい」 同じく一期生のまさかちよさん(引)(大阪市鶴見区)と小南和子さん(70)(大阪府門真市)も「毎日が充実している」と口をそろえる。まったくの初心者だったが、今では動きも軽く、後輩を引っ張る。
 半年前に入団した谷井美鈴さん(56)(同府和泉市)は、地元の市民ミュージカルに参加して舞台の魅力にはまった。台本をテープに吹き込んで、家で練習するほど熱心だ。「自分が楽しくなければ、見ている人も楽しくないはず」と話す。
 中高年ミュージカルの評判は各地に広がり、定期公演以外の上演依頼が増え、ハワイやニューヨークなど海外にも出ていくようになった。秋山さんは「中高年はここまで元気なんだ、とアピールしたい。音楽や人前で何か発表するのが苦手な人でも、どんどんチャレンジしてほしい」と話している。
発起塾の事務局の連絡先は 0120.86.2615     讀賣新聞 2004年(平成16年)3月24日(水曜日)28面