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6作目、ウラシマン
1項目
今日は予定より仕事が早く終わった。
脇さんでもさそって、飲みにいくてもあるがあの人と行くと永いからなあ。
とか、色々考えながら梅田の街を歩いていた。どこか遠くで人の騒ぐ声が聞こえる。ん?あちらの
ビルの方だ。
「この野郎。」
「すみません。すみません。」
誰かがいじめられているらしい。近づいてみると一人の青年が3,4人の男たちに取り囲まれて
小突きまわされていた。
「おい、君達やめたまえ。」
矢尻はチンピラ風の男達に声をかけた。
「なんや、おっさんは。」
「関係ない奴はひっこんどれ。」
「そやそや。」
男達はは口々にワンパターンのフレーズで突っかかってきた。
「かわいそうじゃないか。これをあげるから助けてあげてくれないか。」
矢尻は一万円を男達に渡した。
「ちっ、しょうがねえなあ。」
「まあ、これから気をつけよ。」
言いながら男達は立ち去っていった。
後には、矢尻と怪我をした青年が残された。
「すみません。助かりました。このご恩は忘れません。私は亀山といいます。」
男は何度も頭を下げつつ、街の闇に消えていった。
それからしばらくたったある日、矢尻は十三の駅前を歩いていた。
『ビーッビーッ』クラクションが鳴っている。その音の方に振り返るとタクシーが一台、止まっている。
窓から先日、矢尻が街のチンピラ達から助けた亀山と言う青年が手を振っていた。
「先日のお礼です。乗ってください。」
私は誘われるようにその車に乗ってしまった。
「どこへ?」
バックミラーに写る亀山はニコニコと笑っているだけで矢尻の質問には答えようとしない。
窓に映る景色は走馬灯のように、美しく流れていく。
少しウトウトとしたであろうか、車はあるビルの前に止まっていた。そこはまばゆいぐらいに光輝き
この世の物とは思われなかった。
「どうぞ。」
亀山の声が夢のように響いてくる。矢尻はふらふらと車から降り、そのビルに入っていった。
矢尻が降りた後には、先ほどのタクシーは消えて後には都会には似つかわしくない一匹の亀が
ちょこんといるだけであった。
矢尻は一人の美しい女性に案内されてビルの地下15階までエレベータで降りていった。
エレベータを降りると、あたり一面目映い光に満ちて絵にも描けない美しさであった。
この辺までくると落ちまで長すぎて、読んで戴いてる人もそうだが書いている私もつらいものがある。
少し、飛ばそうとしよう。
店のママが出てきて挨拶をしてくれた。名前は音姫子(おと ひめこ)と名乗った。後は歓待の贅を
つくした宴が延々と続き・・・何時間、立ったろうか。さすがの女好きの矢尻も疲れてきた。
「もうこの辺で。」
ふらふらになりながら、矢尻は立ち上がった。
姫子は名残惜しそうにしていたが、
「いつまでも、お引止めはできますまい。それでは。」
「鯛子、あれを持ってきて。」
女の子が店の奥から小さな箱を一つ持ってきた。
「決してお開けにならないように。」
開けていけないようなものを、最初からわたすなよ。と私何ざ思うのですがそれはそこ。どこよ。
矢尻はいつの間にか、待っていた亀山の運転するタクシーで元の街、十三までもどってきた。
そこは合いも変わらず十三の駅だった。そりゃそうだ。十五だったら恐いわい。
矢尻は姫子からもらった箱をしばらく見つめていたが、やおら箱を開ける事にした。すると中から
白い煙がモクモクと。
なにもかわらない。ウイスキーの広告のようなセリフだが、変わらないものはかわらない。
矢尻はもともと、老人だったのだ。
1項目、終わり
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