19作目、妖怪大戦争
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一項目、一匹目・アルエロマン
アルアルエロエロ、アルエロエッサイム
不気味な呪文と供に現われる恐怖の男。酒と女をこよなく愛してやまぬ男。得意技は『メビュウス
の輪』これで相手を混乱させて倒す。
生まれ故郷は紀の国『となりのこころ』。育った所は神戸の山奥。
レインボーマンを倒す為、闇の組織から選ばれし刺客の一匹目。
永い冬も終わりをつげ、ようやく春を迎え、一日事に日が長くなってきた。
浪花府警機動特攻隊・第十三課に所属している盛山刑事、他の署員からはカトレアのもりやんの
仇名(あだな)できらわれて、いやしたわれている。
最近は第十三課としても、これといった事件はなく、今日も定時を少し廻った所で署をあとにした。
行きつけのおでんやで一杯でも飲もうかと、いつもの店に足を向けた。
見慣れた暖簾を肩で押しながら、古ぼけたイスに腰をおろした。
「おやじさん、いつものやつ」
一見、無愛想にみえるおでんやの主人は、コップに冷酒をなみなみと注ぎ込み盛山の前に置い
た。
盛山はそれを右手で受け取り、一気に渇いたのどの奥に流し込んだ。そしてふーっと大きく一息
をついた。
「もう一杯」
立て続けに二杯、飲み干して三杯目を注文してから、ようやくタバコを取り出し火を点けた。
そのとき盛山の背後に影がさし、一人のサラリーマン風の男が暖簾を掻き分けて入ってきた。
「ちょっとすいません。横よろしいですか」
盛山はチラッとその男の方をふりかえったが、別に返事もせずそのままコップ酒を飲み続けた。
「失礼します」
その男は礼儀正しく頭をさげ、盛山の隣に腰をおろし
「ちょっといいですか、お酒をお願いします」
と、おでん屋の主人にも丁寧に言った。
おでん屋の主人は相変わらず、黙ったままコップに壱合のお酒をついで男の前に置いた。
「久しぶりに外で飲む酒です」
と男は呟きながら、おいしそうにコップ酒を飲み始めた。
「ああ、おいしい」
「ああ、うまい。ああ、うまいやん」
壱合を飲むか飲まないかの内に男の表情が変わり始めた。目は焦点を失い、手は小刻みに震え
だした。そして急に、盛山の方を向くと
「兄ちゃん、俺の酒のめんちゅうんか」
と、つぎもしてないのに絡みだした。そして主人には
「オッサン、この辺にええ女おらへんか」
と、いやらしい口調で言った。
あまりの男の豹変振りに、あっけに取られていた盛山では合ったが、ふいに殺気を感じてその
場から飛び退った。そのとき今まで盛山が座っていたイスにナイフが三本、突きささった。
「きさま」
盛山は胸のホルスターから、S&Wチーフズスペシャルを取り出し、男に狙いをつけた。
「フフフシュルシュル・・・・・・」
男の顔が不気味に崩れ出した。目は大きくうつろに開かれグルグルと廻っている。
そして誰に言うともなしに
「エコエコアルアル、酒ちょうだい」
「女も欲しい」
と、歌うように叫びだした。
(人物設定のクレームは、いかなる場合も受け付けるものではありません)
脇警視の下で、妖怪退治特別部隊に属している盛山には、この男が何者かと言うのがある程度
分りつつあった。
妖怪は問答無用で殺害していいことになっている。彼のチーフズスペシャルが、連続して火を噴
いた。
「ヒョ−オ」
奇妙な声で叫びながらその男、アルエロマンは体を変化させながら弾をかわした。
1項目、終わり
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