18作目、妖怪たちは笑う
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とあるビルの地下。
深い、深い闇の中・・・
点滅を繰り返す、蛍光灯の光。
深い、深い闇の中・・・
影が七つ、沈黙の世界に。
地獄の闇の中から響くような、低い低いくぐもったかすかな声が・・・
「あのなあ、瓶ちゃんとこあした仕事なん?」
と地獄の・・・ちゃうやん。中途半端な似合えへん江戸弁もどきのしゃべりやん!イメージが狂うやん
か。なんでやねん!フーッ。
・・・・・・済みませぬ、意外な展開に我を忘れて私こそ何がなんだか。
では、話をもどします。
このしゃべり方は悪のヒーロー、地獄の仇花(あだばな)ウラシマンではないか。そうです。七つの
影の一人は、時を操るウラシマンであった。ふう−、せっかくの設定があのまぬ・・・いや失礼。ダーティ
ヒーロー様のおかげで台無しになるところだった。ちっ・・・
深い、深い闇の中・・・
はげの一つが、いや失礼。影の一つがそれに答える。陰鬱(いんうつ)に響くような。なんともいえぬ
いやな声・・・・・・
「はい、仕事のはずや思いまつ。きゃはは」
な、なんとこの稚拙な話し方はウラシマンの永遠のライバル、カメデオマではないか。この喜劇その
ものの二人が、素のままで話をしている。これではもう漫才ではないか。
そしてさらに驚く事にもう一人、とどめをさすようにその会話に加わったものがいる。
「ちょっと、いいですか。矢尻さん」
しかし、こちらの方は少しまともそうだ。そうアルコールが入る前の、エロエロエッサイムのアルエロ
マンである。三人、いや三匹の妖怪は仲良く業界語で話しあっている。
そんな三人を、冷たく見つめる残りの四つの影。
深い、深い闇の中・・・
そのうちの一人、漆黒の黒髯を蓄えた見るからに頑丈そうな怪異な入道男が、ボソッと呟いた。
「ふん、だから奴らとある一派と組むのは、いやといったのだ」
「まあ、そうゆうたりな。枯木も山の賑わいゆうやんかー」
と横にいた、大そろばんを背中に斜めに、背負った年かさの男がなだめるように言った。
「いうとくけど、あんたとも喜んで手を組んでるんとちゃうちゃう」
「なんやてー、後輩のくせにぃ」
こちらでも漫才を。ほんまに浪花の人間は・・・
そんな二人と三人を、更に冷ややかな目で見つめる残りの二人。
深い、深い闇の中・・・
「ちょっと皆、きいてくれるー」
一応、座長役のウラシマンが残りの六人を見渡し、少し声を高めて話し始めた。
「きょう、集まってもうたんは実はね」
「なんでつか、きゃは」
「ちょっといいですか。なんですか」
「なんやねんな」
「はよゆいやー」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「うちらのなー」
「なんでつか」
「ちょっと」
「どうやねんな」
「しょうむない」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「共通の敵としてやねエ、愛の伝道師たら言う奴が、最近でてきたんやけどネ」
その言葉に愛に縁のない残りの六人は敏感に反応した。
「そ、それは誰でつの」
と朝、昼、晩と女の事しか考えないカメデオマ。
「ちょっといいですか、それは誰ですか」
と、震える手でポケットからワンカップを取り出すアルエロマン。
「あのねえ、今から説明するからさあ。きいてよねえ。そいつの名前は七色の虹のように、光芒を
放つ男レインボーマンちゅう奴やねん。自分らはそいつと順番にたたこうてほしいねん」
と、いつまでも終わらない話し合いを続ける七匹の妖魔。
深い、深い闇の中。
18作目、終わり
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