16作目、禁銃時代
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1項目、
1919年、アメリカ合衆国でかって実施された法律があった。それは飲料用アルコールの製造
・販売・運搬等を禁止とするもので、それが禁酒法と呼ばれるものであった。
時は変わって200X年1月、ニホン国でトィガンの製造・販売・運搬・使用が禁止される事になっ
た。その遠因は2006年に起こった、改造トィガンによる殺人事件に端を発する。
それはノアの箱舟というバトルチーム内で起こった、事故に等しいトラブルであった。バトル中に
転倒し頭を打ちそのまま死亡したという、どちらかというとトィガンには直接関係のない事故である。
だがその事件を利用しようとして、重くみた検察及び警察はそれを法制化しようと、国会に持ち込ん
だ。その結果トィガン総てが規制の対象となった。使用はもちろんの事、製造・販売が一切禁止の対
象となったのである。
これをマスコミの間では『平成刀狩り』と呼ばれて、新聞・TVで大々的に報道され話題となった。
しかし、今までにトィガンを購入して所持していた人々は、敢然とこれに反抗した。と言っても隠れ
てバトル会を開催する程度のレベルだったが。
それに対して法律上、始めの内は罰金1万円以下と注意覚え書にサインをするだけであったが、
その程度では愛好家たちの数は一向に減らず、逆にバトル人口は増加する一方であった。
これに業をにやした警察は再度、国会に法律改正を申請した。(こんな事が実際に出来るかどうか
知りませんが)
結果、違反者は6ヶ月以下の懲役、及び罰金30万円以下と言う事になった。逮捕されれば前科者
である。これには殆どの愛好家たちは戦慄せざるを得なかったのである。
そしてそれから何ヶ月がたち、夏も終わろうかと言うある日曜日、チーム事務所玩具銃の面々は秘
密裏にバトル会を開こうとしていた。ちなみにこの事務所玩具銃という警察に闘いを挑んだようなチー
ム名は、この時にはなかよし会と言う名前に偽装変更されていた。
河内にある山の一角の秘密の場所に、集結しようとするメンバー。
国道XX号を目的地に向かって、2台の車が走っていた。前の車には亀山と脇、2台目には船出と
矢尻が乗っていた。そしてその2台の車を追う様に、1k後ろに村山の車が。
現地には既に雲野、岡田、梅川、森と言った古参メンバーが待っていた。そして合流。
落ち合ったメンバーは、車に1人を見張りにつけ広場に集合して競技を始めた。
そこに突然パトカーが3台と大型バス1台が、連なってやってきた。先頭のパトカーからは私服刑
事を先頭に、何名かの制服警官が降りて来た。続いて他のパトカーからも制服の警官たちが。
私服刑事の1人が、見張りに付いていた亀山に警察手帳を見せ身柄確保し、続いて広場の方に
向かった。そこでは何もしらないチームのメンバーたちが、はしゃぎまくってゲームを楽しんでいた。
「それまで!」
刑事は大声を揚げて男たちの集団に割り込んで静止させようとした。数名の制服警官達がそれに
続いた。
「責任者はどなたですか」
きょとんとした顔で、急に現われた警官達を見ていたメンバーのなかから、一番年かさの脇が前に
出てきた。
「責任者じゃないけど、一応代表ですが」
「浪花警察です。貴方達を逮捕します」
刑事は後ろの警官達の方を振り返り合図しようとした。
「ま、待って下さい。何の容疑ですか?」
「何の容疑って決まっているじゃないですか。エアガンの・・・」
いいながら刑事の視線が脇の手元を見ながら、声が小さくなっていった。
「エアガン?これが?」
と、脇は右手に持ったゲートボールのステイックを掲げてみせた。
「ゲ、ゲートボール?そ、そんな」
刑事は、脇以外の他のメンバー達の間を駆け巡ったが、誰もが持っていたのはまぎれもなくゲート
ボール用の諸道具であった。よく見ると彼らの服装も例の迷彩服ではなく、雲野などはゴルフウエア
で身を包んでいたし、他は作業服の者もいる。バトルをするような服装ではない。脇に至っては作務
衣を着ている。
「捜査しろ」
警官たちは広場をくまなく探してみたが、それらしきものは見つける事ができなかった。
「馬場刑事、何も出てきません。ゲートボールの道具だけです」
30分後、探し疲れた警官達は刑事の馬場の報告した。
「くそっ、ガセだったか」
刑事は悔しそうな顔をすると
「すみません。何かの手違いでした。」
といって脇たちにあやまり、警官達を促しひきあげていった。
「うまくいったねぇ。あぶないとこだったね」
矢尻は船山と顔を見合わせながら、脇の方に近づいていった。
「これから、これから」
どういう意味か脇は皆の方を振りながら笑った。
1項目、終わり
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