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2項目、「車はレンター」
自分で何を言ってるのか、判らないほど私はあわてふためいてていたらしい。
目の前に現れた、自衛隊の隊員と思える迷彩服を着た男たちに
「これはゲームです。」
と何度も繰り返しいった。しかしそれが聞こえないのか、顔にも迷彩を施したその男たちの、右の方の少し
小柄な方がゆっくりと銃口を私に向けた。
冗談に決まっている。これを冗談といわずしてどうするのか。第一、先ほどセフティゾーンで集合したとき、
こんな戦闘服を着込んだ連中はいなかったはずだ。だが私の足元で転がっている、血だらけの脇さんの
死体は冗談ではなかろう。
ん?もしかしてこれは大掛かりなドッキリか。最近参加率の悪い私をからかおうとして、脇さん以下全員で
仕組んだ事なのかも知れない。そういえば今銃口を私に、向けつつある男の方は、どこかでみたような気が
する。
確か友好チームの、足軽機動隊の誰かに似ている。そうだ確か河部さんとか言ったはずだ。あのチームなら
コスプレが好きそうだし、自衛隊の服を持っていても不思議ではないだろう。すると脇は演技で倒れているのだ。
急に今まで鳴り響いていた音が鳴り止んだ。やっぱりドッキリだったのか、こんなに手間隙をかけてよく
やるわ。脇さんに至っては血糊まで仕込んで本格的なのだ。
「脇さん、もういいですよ。わかりましたから、今度からなるべく定例会には参加するようにしますから。」
そのとき横の小山の影から誰かが、自衛隊員に化けている河部さんに向けBB弾を発射した。
「うっ。」
河部さんはもろに顔に浴びた。何せたかがBB弾といっても、彼はゴーグルをしていない。ヘルメットのみ
なのだ。
(これがドッキリだと、しらない奴がいるのか?あぶないじゃないか。)
慌てて小山の方をみると、そこにいたのはもう一人の河部さんではないか。
「矢尻さん、逃げろ。こいつらは本物だ。」
と、もう一人の河部さんが、血だらけの姿で手を懸命に振っている。
あれが河部さん、とすると私の前で銃口を向けている、こちらの河部さんは河部さん?
自分でも何がなんだかわからなくなってきた。唯一つ判っている事はこのままでいると、私も脇さんのよう
になるということである。私は後ろも見ずに逃げた。「パン」耳をかすめてBB弾が、いや憧れの実弾が飛んで
いった。必死の勢いで走っていると、梅田と森田の死体が仲良くころがっていた。
何とか車のところまで逃げ帰ると、なんとテントや車から火が上がっていた。
私はそこにいた20人ほどの自衛隊員に向かってさけんだ。
「なにをするんや!この車はレンターやぞ。」
2項目、「車はレンター」終わり
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