15作目、ヒールバトル2・メビュウスの輪
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     1項目、

      新たに一匹の妖怪が、誕生した。
      場所は、とある地方のとある宿泊施設『となりのこのの』
      そこの部屋の一室で、2匹のヒール妖怪(ウラシマンとカメデオマ)からの怪オーラを浴びて、1人
     のサラリーマンが突然変化(へんげ)した。男の名は舟出篤馬(ふなであつま)。妖怪としての名は
     アルエロマン。
      ある程度、酒が入っていくとエロ親父になる。(そんなもん、誰でもやないかい)というべからず。
     彼の酒の量とエロ度合いは、人並み外れて超S級なのである。
      その男がウラシマンとカメデオマ(カメレオンマン)の、ヒールバトルに参戦したのだ。

      気球とジエットヘリ対決以来、犬猿の仲となったウラシマンとカメデオマは、その後もことあるごと
     にいさかいを繰り返していた。
      最近では、船出を妖怪化させた『となりのこのの』での怪談いじめ事件がある。それは妖怪たちが
     終結して新年会を開いた時のことらしい。
      妖怪のくせに恐い話がきらいという、カメデオマこと亀山に同じく、ウラシマンこと矢尻が得意の
     そんなことあるかい怪談話の集中攻激をかけた。その結果、半狂乱になって裸踊りまでした亀山
     は、それを根にもち矢尻に対して決闘状をたたきつけた。
      こうしてヒールバトル、2ラウンド目が始まった。
      決闘に指定された場所は、牧緒山の一角にある砕石場である。
      立会人として愛と夢の教導師こと、七色レインボーマンである。その正体は現段階では不明。
      ルールはА地点よりB地点へ、互いに反対方向に走り、出あったところで戦いに突入する。ウラシ
     マンは時間を操り、カメデオマは変化の術ととボンバー(爆弾)を使う。問題はアルエロマンの動向
     である。
      
      カメデオマはとある建物の上の一番、高い所に昇り、ウラシマンの到着を今や遅しと待っていた。
     彼は総てにおいて臆病なので、塔の上に上がるのにも安全帯と命綱を、3重にもつけてなおかつ
     手すりにしがみ付いていた。
      そこに闇の中からウラシマンが、ロープにぶら下がりながら滑り降りてきた。
     「まったぁ?ちょっとそこの空の上で混んでってん」
      と友人のような気安さでウラシマンが声をかけた。
     「・・・・・・・・・・」
      それに対して、恐がりのカメデオマは声もでない。
     (それやったら、こんな高いところで待ち合わせすなっちゅうねん)と神の声。
     「よかったら、今からやるう?」
      と、説明の難しいニュアンスの大阪弁でウラシマンが宣言した。
     「あっ、それとこれ例のDVD。サバゲゲットの撮影分」
      それでも震えながら、手を出し受け取るカメデオマ。
     「私はこっちからいくでぇ」
      とすばやく飛び降り、臨戦対戦を整えるウラシマン。
      対象にはしごをかけて、恐る恐る降りるカメデオマ。

      同時に下におり・・・ない、2人。ウラシマンは北に向かってかける。
      5分後に建物の下に降りたカメデオマは、南の方に向かって走る。それから互いに出合ったところ
     で激突するのだ。2人は走る。走る、走る。
      カメデオマの正面から、銀髪をなびかせたウラシマンが向かってくる。後、2分弱でぶつかるだろう。
     走る、走る2人は♪
      その2人を近くの塔の上から、見下ろしている男がいた。
      そう、第3の男、アルエロマンである。彼はエネルギーの素であるメチルアルコールを1ガロン飲ん
     でいる。まだ飲み足りない所だがやむをえない。そのトロンとした瞳で眼下の2人を見ていたが
     やがて、呪文を唱え出した。
     『アルエロアッサイム、アルエロアッサイム』
     (どこかで聞いたような呪文が聞こえるわぃ)
      別の場所で待機していた、立会人の脇、いや・・・レインボ−マンはつぶやいた。
     『アルエロアッサイム、アルエロアッサイム。メビュウス!』
      閃光が走った。

     (あれ、おかしいな?)
      今まですぐ前に見えていたウラシマンが見えなくなった。
      同じ時刻、ウラシマンもその細い目をこすっていた。
     (カメデオマがいなくなった?)
      同じ場所で互いを探してうろうろしている2人を見下ろしながら、アルエロマンはつぶやいた。
     (ふっふふふ。『必殺メビュウスの環』そうしていつまでもうろついているがいい。真の帝王は俺だ)

      互いに相手が見つからず、ウロウロしている2人と高笑いのアルエロマン。こうして3匹の妖怪
     たちの夜は過ぎていく。

       15作目、終わり
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