13作目、a leap2
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     1項目、

       平成一の犯罪者、カメデオマ。
       その男からの犯行予告状が、貴石警察署に届いたのは年の瀬も押し迫った去年の12月15日の
      事であった。
      「署長、脇署長。」
       矢尻巡査長が、署長室に駆け込んできた。
      「か、か、怪盗カメデオマからの手紙です。」
       朝から競馬新聞を広げて、くつろいでいた署長の脇は慌てて新聞紙をたたみ、
      「むっ、見せてみろ。」
       と言って矢尻の方に向き直った。
      「はっ、これです。」
       その手紙を受け取った脇は、引きちぎるように手紙を開封した。

      『2006年、1月1日午前9:00、O・T・Gビル、55階の宝石店を爆破する。 カメ。』
       その手紙には、見慣れたカメデオマの字が躍るように書かれていた。
      「またも、爆破予告か。」
       脇は背もたれのついた署長用イスに深々と腰を沈めると
      「奴の事だ。またビルを爆破すると脅迫してきて、宝石か絵画などを盗もうとするのだろう。」
       とつぶやいた。
      「どうしましょうか。」
      「うーむ。まだ2週間はあるが、早速手配しろ。」
      「はっ。」
       矢尻巡査長は、慌てて署長室をでていった。 
       その後、貴石警察署はそのもてる力を総て注ぎ込み、総動員体制をとった。

       2006年1月1日午前8時。O・T・Gビルの55階の宝石店『ホーホッホ』の店内では、脇署長以下
      60名の警察官が、警戒に当たっていた。
      「署長、奴はきますでしょうか。」
       警備の先頭にたって指揮をしていた矢尻巡査長は、部屋の中央に陣取って座っている脇署長に
      言葉をかけた。
      
      (このショートは探偵物語ではないので、この辺のところはざっと省略します。いずれ長編に書き直
      す事があれば、またそのときに。)

       突然、亀、いやカメデオマが現われた。
      「脇さん、宝石ホッホをいただきに来た。」
      「出たか、カメデオマ。」
      「それ、逮捕しろ。」
      「脇さん、それに警察官の諸君。相変わらず学習能力がないなあ。」
      「なにっ。」
      「9時丁度に爆発するように爆弾を仕掛けた。それ程、大きな物ではないが充分この内部ぐらいは
      破壊される。早く避難したまえ。」

      「今、8時55分だ。あと5分しかない。今からでは爆弾を探すのはむりだよ。」
      「そ、その手にはのるか。」
      「冗談ではないのだよ。脇署長。」
      「そら、あと2分になったよ。」
       周りを取り巻いている、警察官に動揺が走った。
      「し、署長・・・。」

       カメデオマはそれらを、あざ笑うように見ながら
      「私は、諸君らが粉々になってから堂々と盗めばよいのだからね。」
      「もう30秒だよ。」
       59分45秒。チッチッ・・・59分46秒。チッチッ・・・
       59分59秒。チッチッ・・・
      「だめだ、もう爆発する。」
       カメデオマは防爆マントに身を隠した。
       8時60分1秒。チッチッ・・・60分2秒。チッチッ・・・60分3秒チッチッ・・・
      「あれっ?爆発しないぞ。やはり嘘であったか。」
       一斉に床に伏せていた脇たちは、立ち上がってカメデオマに殺到した。
       それ以上に驚いたのは、亀、いやカメデオマの方であった。
      「1月1日?9時?・・・しまった、うるう分か。」
       カメレオンマンは後ずさりしながら
      「ま、待て。これはうるう分で1分、違いが出てきたのだ。1分後には本当に爆発するぞ。」
       と、大声で叫んだ。
      「何、うるう分?そんなものは聞いた事がないわ。それっ、奴を捕らえろ。」
      「本当だ。あと30秒。」
       8時60分31秒。チッチッ・・・60分32秒。チッチッ・・・
      「ばかめ、わからんか・・・仕方がない。」
       呟くなり、カメレオンマンは両腕で頭をかばい窓に体ごと突っ込んだ。
      「ガシャアーン。」
      「ムッ、奴め。逃げたぞ。」

       60分58秒。チッチッ・・・60分59秒。チッチッ・・・

      「ドッカーン。」
       凄まじい音が55階のフロアに響き渡った。
       9時00分1秒。チッチッ・・・00分2秒。チッチッ・・・
       そのあと、静寂と時間だけが過ぎていった。


      (本当はうるう分というのは現実にはありません。今年は1月1日8時59分59秒から60秒と1秒
      だけうるう秒が調節の為、入りました。)
 
        1項目、終わり
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