7作目、テイク・アウト
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     「やったー。」
     「ばんざい!!」
      種子島宇宙センターにある、宇宙航空研究開発機構財団の探査機『はやぶさ』チームの管制塔内は
     喜びで大騒ぎであった。
      2005年11月20日、地球から約2億9000万キロ離れた小惑星イトカワのミューぜスの海に、第20号
     科学衛星『はやぶさ』は、日本では始めてである他の天体への着陸に成功した。さらに6日後の11月
     26日に今度は、世界初(月以外の天体での)の快挙である岩石を採集する事にも成功した。
      これは日本としても画期的なことであった。

      同じ頃、探査機『やぶさめ』チームは小惑星ウラシマに対しても、『はやぶさ』と同じ実験を試みていた。
     その指揮者である技術部矢尻課長代理補佐は、仲間である処の『はやぶさ』チームに対して猛烈な敵
     愾心を抱いていた。
     「根性でがんばるんだ。」
      と時代にそぐわないアナログ的なことを言って、部下の脇や亀山といった部下たちを叱咤激励していた。
     もっとも、世間では大根やキャベツなどが根性を見せているぐらいだから、技術の粋を行く宇宙探査機の
     ことだから根性ぐらい少しはみせても悪くはないのだが。

      さて『やぶさめ』である。
     じわじわとタッチダウンの段階に入りつつあった。タッチダウンとは着陸して資料採集をしてまた、離陸
     するということであるらしい。当然、リアルタイムでは管制塔からは見る事はできない。何時間かのタイム
     ラグがあってやっと結果が送られてくる。だから成功か失敗かは『やぶさめ』からデータが送られて来て
     初めてわかる。

      矢尻課長代理補佐を始め部員一同、固唾を飲んで『やぶさめ』からのデータの到着を待っていた。
      ジジジジジッーーーーーー。
      『やぶさめ』からのデータ送出のプリンターが動作し始めた。
      矢尻はプリンター用紙を引きちぎるようにして破ると、必死でデータを読み取った。
     「成功だ、はやぶさよりは遅れたが、世界で2番目の採集に成功した。」
     「おめでとうございます。」
     「よかったですね。課長代理補佐。」
      部員達が、次々に矢尻の廻りに集まり握手を求めてきた。

      その頃、日本の裏側に当たる南米のチリの国のとある地方の牧場で、子供が親に向かって叫んでいた。
     「パパ、パパ。」
     「どうした?トミー」
     「日の丸のマークが付いたロボットが、牧場の石を拾って逃げていったよ。」


       7作目、テイクアウト終わり
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