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   ショートSF・ウラシマンシリーズ   街谷次郎・作
    1作目、実弾は撃ちたいが
     1項目、[これはゲームです]

    〈久しぶりやなぁ。)
     レンタカーのハンドルを握り、矢尻は道を確かめつつ先を急いだ。
     今日は趣味の内では、三番目に好きなサバゲー(サバイバルゲーム)の定例会だ。前回の参加から2ヶ月
    が立つ。
     仕事にかこつけて2回程、参加をさぼったのは、やはり寄る年波には勝てないってやつか。
     と言ってもまだ40歳半ばであるが。本人はまだまだ若いつもりで、髪の毛を茶色に染めたりしている。

     目印のある角を右折して、舗装のしていない田舎道に入った。さらに2分程走ると10人ぐらいの人数が、
    思い思いに簡易テントを張っているのがみえた。空いている所に車を止めて、エンジンをきった。
     チームの代表者の脇が近づいてくる。脇に合うのも久しぶりだ。何もかも懐かしい・・・なわけがないか。
    「☆○X★・・・。」
     何か窓越しに言っているが、滑舌が悪いので何をしゃべっているのかわからない。まあいいか、どうせ
    たいした事は言ってないだろう。
     他のメンバ−も挨拶にきた。雲野、岡田といった面々だ、他はまだきてないらしい。
     このフィールドはかなり広く、ブッシュの多いところで有名だ。

     メンバーもそろい、他の友好団体も何組か集まり、適当に『赤』と『黄』の2チームに別れ、いざゲームの
    開始となった。
     私は『赤』チームだったので15人程の仲間と、赤フラッグのある右手の方に向かって歩いていった。
    いつものことながらゲームとはいえ、やはり多少の興奮と緊張感はある。
     後ろを振り返ると、いつみても派手な青色に塗った、フェイスマスクを装着した脇が立っていた。その横には
    雲野、ちょっと離れて沖田、梅田という、うちの主力の顔ぶれが並んでいた。
     
     合図の笛が鳴り、皆は思い思いの方向に向かって走り出した。
     さていつもなら亀山という、脇の元後輩であった男と、行動を一緒にする事が多いのだが、最近亀山は
    ドタキャンが多く今日も参加していない。友人の舟出も今日は不参加だし、代表の脇は皆と行動を供にする
    という事はしないので論外だ。今も見ていると相変わらず、一人でボーっとしている。マスク越しなので表情
    までは読み取れないが。
     仕方なく前を小走りに進んでいく、他チームの若手らしい男の後についていった。
     暫くするとあちらこちらで、トィガンの発する打撃音がけたたましくなりだした。

     前を行く男が足を止めた。先方に敵の影がブッシュ越しにかいま見えるらしい。私もその後ろの木の陰に
    身を潜めた。しかしどこかおかしい、よく耳をそばだてていると打撃音は相変わらず聞こえるが、撃たれた時
    の「ヒット。」という声が一向に聞こえてこない。ブッシュの多いところだ、弾が当たりにくいのであろうか。
     突然、前にいた若い男が
    「うっ。」
     とうめいて崩れるように倒れこんだ。
    (あちゃー、敵はすぐそこにいるのか。あぶねーあぶねー。)

     ん?おかしい。倒れこんだ男がいつまでもヒットコールをしない。さてはゾンビか?いや、立ち上がりもしない。
    木の根にでもつまづいて、胸でもうったのか。しばらくみていたが動く様子もない。
    (おいおい、事故かよ。いやだよ面倒だし・・・、先月にも仲間の沖田がアバラを折ったばかりだ。)

     すると珍しく、いつもは前に出ようとしない脇が、私の横をすり抜け倒れている男を飛び越え、前方に向かっ
    て自慢のクルツを乱打しだした。
    「脇さん、そこはあぶない。敵が」
     私の声が終らないうちに、脇が後ろにすごい勢いでふっとんだ。役者やなあ、やるやんかと思いつつ
    それでもいまのこけ方はいたかったやろ。そこまでせんでもと笑いながら、脇の横にいくと自慢のマスクの
    額のところに穴が空き、さらにその穴から血が噴出していた。
    「脇さん・・・。」
     しばらく状況が飲み込めず呆然としていると、前方のブッシュを掻き分けて2人の男が、ゆっくりとした動作
    で出てきた。
     銃を構えている。
     その先から硝煙が。どこかでみた事がある銃だ、これは確か陸上自・・・
     2人のうちの1人の男が私に銃を向けた。私はあわてて大声でさけんだ。
    「まって、これはゲームです。」


       1項目、「これはゲームです」 終わり

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