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その7、
世間では暑すぎた夏も、やっと終ろうとしている。
私の会社での仕事も一段落付き、今日もこうしてこの店で落ち着いて飲めるようになった。
しかし例の無法者たちには、休みと言う言葉は無いのではないか。
最近、彼らの様子をかいま見ていると何か険悪な感じがする。ついに彼らの間で、抗争が
始まろうとしているのか。
今日も、私がいつものようにビールを、注文して飲み始めていた時、既に集まっていた二代目、
かしら、顧問、かしら補佐の4人が大激論を闘わせていた。
その内容なのだが、聞くとはなしに聞いていると、ずばり跡目相続の件らしい。
まず、二代目さんが
「今まではよかったけど、これから始まる戦いに、生き残れるのはだれやろなあ。」
と、ドスの効いた声で口火をきった。
私は今までこれほどはっきりとした、宣戦布告の宣言を聞いたのは、後にも先にもない事であった。
(当たり前や、そうそう聞けるもんやあらへんわ。)
さすがにかしらは黙って聞いていたが、かしら補佐がこれに反発するように
「おやっさん、それはわしらにゆうとるですかいのー。」
と噛み付いた。それに対して
「チンピラはだまっとれ。これはわしと顧問の問題じゃ。」
「しゃあけん・・・。」
(いつの間にかセリフが、広島弁に変わっている)
するとそれまで黙って飲んでいた、メカ音痴顧問が軽い口を開いた。
「おやっさん。それは年の順でっしゃろな。」と、やっとセリフを関西弁にもどしてくれた。最も
二代目の本家は広島にあるのだから、広島弁が出るのもやむ得ないことではあるのだが。
その後も、年はそっちの方が上じゃとか、持病が有るくせにとか見苦しいうちはもめが続いた。
やはり、二代目と顧問との間には辛くて長い河が有ったのだ。ヘィ、アンドボー。♪
多分、もう1人の幹部である相談役の、待遇をめぐって相当の軋轢があったのであろう。
激しいやり取りの後、しばらくの沈黙が・・・
私も、あげを食べるのも忘れ、このあとどうなるものかと固唾を飲んで聞き入っていた。
その時、この緊張に耐え切れなくなったのか、私の横に座っていた男が恐る恐る口をはさんだ。
「先ほどからお聞きしてますと、親分方は広島の方で?」
「それがどうしたんかいのー。」
せっかく関西弁に戻ったばかりなのに、広島という言葉に反応して二代目がまた広島弁に
なった。
「いや、私も広島の出なんで。」
「くれやな。」
「はあ?」
「呉うまれやなゆうとんやけん。」
段々、どこの方言かわからなくなってきたけん。いけない私もうつってしまったじゃろ。
「紙屋町でっか?」
と、そこしかしらない町名をだして、補佐が言った。
そうこうしているうちに終わりが近づいた。顧問が立ち上がって、懐から何かを取り出した。ドス
でも取りだすのかと、見ているとなんとそれは玉子であった。それをママさんに渡して出て行った。
全員の、
「?」マークを尻目に、突然抗争は終ったのだ。続いて憮然とした顔で二代目が立ち去った。
その7、終わり
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