小説の目次へ

         その五、

         一週間ぶりに、仕事が早く終った。
         今日は金曜日である。確かあの居酒屋における、闇の集団である彼らの幹部会は、確か週始めの
        はずだ。すると今日は客としては、一般市民(どんなんやねん)ばっかりか。まあたまには落ち着いて
        いいかもしれないと思い、地下鉄を乗り継ぎして店に向かった。
         美人ママとゆっくり話が出来る、思えばあの店に行きだしてから、極道とおぼしき闇の集団、その廻り
        でうごめく、ただの市民とは思えないグループ。
         ある日突然現れた浦島太郎、その男の影響かどこか田舎の小さな駅の、焼肉屋にタイムスリップして
        しまった事件。あの日は、あれから3回目の落雷の時に、何とかもとの場所である居酒屋に戻る事が
        できたが。

         いつもの地下鉄入口の階段を、上がりふと考えた。
         (まさか今度は居酒屋そのものまでが、なくなっているという事はないだろうな。)
         足早に階段を上りきりその事を確かめると
         (よかった、まだあったか。)
         と、ふと胸をなでおろす私。おやおや私もとうとうこの店の、一人前の常連客になったか。
        「てへっ。」
         松浦綾みたいになったような気持ちで、照れながら頭を掻くしぐさをしあたりを、見回す私がそこに
        いた。

         (ほれたな。)
         あの美人ママさんにだ。でないと魑魅魍魎(ちみもうりょう)の客が潜み集まるこの店に、そうたびたび
        来れるもの
        ではない。
         《段々、ジャンルが判らんようになってきたな、この小説。》と神の声が・・・
         いつものように暖簾を上げ、扉をあけた。
        「いらっしゃいませ。」
         これこれ、いつもの声だ。
         今日は、まだ客は私の前に一人だけだ。前にあったような気もするが、話するほど親しくなっていない
        ので少し離れてすわった。この客は見かけはかなりいかついが、あの一家のメンバーではないような
        気がする。
        「旭のドライですね。」
         ママさんは笑顔で私の顔を見ながら言った。やっと覚えてくれたようだ。
        「あてはなんにします?」
        「雁の助だす。」というギャグをいおうと思ったが、あまりにも親父ギャグなのでやめた。さすがに
        あてまでは覚えてくれてないか。
        「おでんのあげ、大根、ごぼてん。」
         辛子をたっぷりと塗り、おでんをほうばっていると

         ガラリ、音がして扉が開き二人の客が入ってきた。この男たちも見たことがあるような。一人は
        帽子をかぶっている。もう一人は確か客人の、タッチさんと一緒にきてた人だ。私もここの事に詳しく
        なったもんだ。確か前川さんとかママが、呼んでいたように思える。そうするともう一人は・・・で
        いや、淡口さんだっけ?。
        
         考えていると、また次の客が。
         きた、ベスト男だ。今は電話番から、かしら補佐に出世したらしいが。
             《なんでそんなことまで、しってるねん。》と再び神の声が

         ベスト男は不機嫌そうに端のほうにすわった。
         美人ママは、ビールを抜き、彼の前におき
        「昨日は、いーちゃんとやまさん、ふたりできゃったよ。」
         と何か、意味不明のことをささやいた。何のことだ暗号か、今まで聞いたことのない名前だ。
        そんなわけはない、一家以外でベスト男に名前を言うわけがない。暫くしてベスト男が、携帯を取り
        出してどこかにかけている。マナーのないやつだ。思いながら聞き耳をたてていると、どうも事務所に
        かけているらしい。
         しきりにかしらとか、仕事とかいっているような気がする。またあの軍団が集結するのか、新しい
        抗争が始まるのか。

         15分ほどして、外の闇から沸いてでたような、同じ色をした、野球の半身タイガイニセーのフアン
        のお宅である、かしらと呼ばれている男が姿をあらわした。相変わらず荒んだ目であたりを威圧
        しながら入ってきた。
        「きょうは顧問は?」かしら補佐に昇進した、ベスト男が聞いた。
        「今日は、じか帰りちゃーう。」
         と吉本のタレントの湯ン婆のような、いいまわしでかしらがほえた。

         《何か今回は、やはりオチがなさそうな。》

         前回と同じく、今日も結局はかしらと補佐の、二人だけしか集まらなかった。どうした花丸一家の
        結束は。《そんなもんもともと、アルカイダ。》
         どうしたななりくチルドレンの結束は。《だから、そんなものは始めからないんだって。》 
         
         主人公のおじさんは、どこに消えたのだ。おや、また雷がゴロゴロと・・・。


         賢明なる読者の皆様、最近ネタぎれですのでネタを提供してくださいませ。
              この一文を花丸に捧げる。

            その5、終わり

          小説の目次へ