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その14、
 救急車のサイレンの音が遠くの方から聞こえてきた。
かしらの小髯は、七陸を抱きかかえてふら付いている盛土に向かい
「俺が病院まで付いて行く。警察がきても何もいうな。」
 といい、そしてママに聞こえないように
「お前は出来る限り、兵隊と道具を集めとけ。」
 といった。
 そのとき救急車の隊員が店内に入ってきた。一人は背の高い男でもう一人はまだ若く新人
であるらしかった。背の高い、隊長らしい方の男が七陸に近づきながら、かたわらの盛土に
向かい聞いた。
「この人ですか。どうしました。」
「いや、何がなんだかわからんが、外からいきなり鉄砲を撃ち込まれた。」
「それは大変だ。警察にも連絡をしなくては。」
 それに答えてママが
「はい、今しました。」
 小髯はトカレフを、青ざめて立っているママにそっと渡し
「とにかく俺が着いて行く。また病院から連絡する。」
 といいながら七陸と一緒に救急車に乗り込んだ。
 救急車が去った後、静寂をとり戻した『花ちゃん』の中にママと盛土ガ残された。
「兄貴の事も心配やが、ここにいても一緒やろ。警察が来る前にわしは身をかわすさかい、
後は適当にたのむわいや。かしらからも何か連絡が、はいるやろ。」
 盛土はそういい残しそのまま、夜の街の闇に消えた。
 後にはママが一人のこされた。
 今度はパトカーのサイレンの音がちかづいてきた。

 店をでた盛土は、タクシーを拾いあるホテルに向けて走らせた。そこには植山が精鋭を率い
七陸からの連絡をまっているはずだった。
 「それと、盛土の若いもんも集合かけといてくれ。」
                   矢継ぎ早に命令をだしながら、小髯は最後に
                  「坂虎と花丸の戦争じゃ。」
                   といいながら携帯の通話をきった。

 あくる日の朝、産経病院の廻りは異様な雰囲気が漂っていた。黒い服を着た男たちが何十人
と病院を取り囲んでいた。その中で一番、目立った動きをしていたのは三井墨友興業の若手の
面々で、その数三十人はいるだろう。若頭の那賀しょうを筆頭に補佐三羽ガラスの中田久、真丸
亀、森森司の三人がそろっている。




 それに元、補佐を勤めていた平河美野里。この男はえたいの知れない五人の男たちを伴って
いる。


この男たちは一様に懐に、料理用の包丁を呑んでいるらしい。
 流れ板・平河

 その他に、百人程の集団がいる。彼らは東京司馬浦興業の大阪支部の連中らしい。その中
でも行動派の岡山元八が率いる、精鋭部隊である。








 同じく天間支部の長である九尾茶もいっしょである。岡山は元三井墨友興業の理事長をして
いたが七陸と同じ時期に破門されている。
 彼らとは一線をしいているが、大和の独立組織のアップル総業のギャング達も十人ほど参加
していた。花丸一家系の人数をあわせれば合計で二百人を超える。
 さらに花丸一家は、植山、盛土らを中心に三百人をホテルや旅館に分散させとまらせ、いざと
いう時に備えさせている。浪花のまちは花丸を中心に緊張の輪を広げだした。
 相手は坂虎か、千葉毬組か。


  その14、おわり

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花丸補佐四天王・植山、
盛土
 盛土は402号室の前でとまり、静かにドアをノックした。
「はい。」
 しばらくして中からドアが静かに開いた。
 隙間から植山の若衆の一人、佐々木賢助が顔をのぞかせた。
「盛土のおじさん。」
 佐々木が、ドアのチェーンを外し盛土を中に入れた。
「おやっさん、盛土のおじさんです。」
 奥の部屋でベットに寝転んでいた、静かなるスーが目を開いた。
「盛土?七陸の兄貴から指令がでたんか?」
「それどころやないで、七陸の兄貴がうたれたわい。」
「なんやと。」
 いつもは冷静な植山が、血相を変えてベッドから立ち上がった。隣の部屋にいた佐々木
以下5,6名の組員もいっせいにイスから立ち上がって、植山の廻りに集まってきた。
「それで?」
「今、かしらが病院に一緒にいっとる。」
「なんかあったら、連絡してくるやろ。」
「なんかとは?」
「なんかじゃ。」
 植山と盛土は、お互いに相手を睨みあいながら、その格好で立ちすくんでいた。
 そのまま時間だけが、刻々と過ぎ去っていく。


 しばらくして、植山の携帯電話がなった。植山は恐れるように応答ボタンを押した。
「おう、植山か。」
 受話器の向こうから小髯の声が聞こえてきた。
「かしら。」
「七陸の兄弟は、まだ意識不明じゃ。ここ2,3日が山やろ。」


                「それで?」
                「ママに連絡を取りたいんじゃ。」
                「わしはママの携帯番号をしらんしのう。」               
若頭・小髯
若頭・那賀   補佐・中田      補佐・真丸     補佐・森森

相談役・岡山

天間支部・九尾