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その13、
 このままでは花丸一家が崩壊する..。
江戸から補佐の一人、植山を呼び寄せた七陸は次の手をうった。本来ならこういうことは若頭の
仕事であるが、かしら自身が揺れ動いているのだからやむおえまい。一家内そのものの揉め事
もそうだが、柱であるべきかしらの小髯が坂虎組に振り回されている。しかしそれももう少しで終
わるはずなのだが、あと五日はかかるであろうといわれている。
 現在、秘密裏に闘われている坂虎組対千葉毬組の抗争は、千葉毬組の二勝で始まり今日から
後半戦が行われる。
それが終われば、来年まで抗争はなくなる。最も来年は江戸巨大会が坂虎組に変わってでてくる
と言う噂がもっぱらであるが。

 それはさておき、次に七陸が取った作戦とは意表をついたものであった。
七陸は、一番始めに組長の伊川に連絡をとり、「はなちゃん」にきてもらうことにした。そして次に
相談役の山路も呼び、なんと問題のかしらの小髯までを一同に集める事にした。思い切った手を
次々に打ち、万一の為に補佐の盛土もよぶことにした。
 本当なら顧問の短も呼べばよいのだが、居り悪く短は体調をこわし入院していた。ひそかに
呼び寄せていた植山は、その精鋭の組員達とともに近くのホテルで待機しながら、七陸の連絡
を待っていた。

 七陸が「はなちゃん」に着いたときには、既に相談役の山路が来ていた。山路は一人でビールを飲んでいたが、七陸をみると手をふって笑顔で
迎えてくれた。
「おう、久しぶりやな」
 山路は現役を退いてからは、伊川専属の相談役みたいになっていた。
「叔父さんも、久しぶりで。」
 七陸が山路の横に座ろうとした時、組長の伊川が入ってきた。
「やっぱり七陸かい、後姿を見て誰やろうと思ったわ。」
 珍しく上機嫌で伊川は、笑いながら入ってきた。
「組長もいまでしたか。」
 七陸は山路の隣から席を一つ空け、伊川が席に座るのを待って腰を
おろした。

相談役・山路
補佐・七陸

「おう。七陸もじゃんじゃん飲むまんかい。」
「はい、有難う御座います。」
「小髯はまだかいな?」
「はい、先ほど連絡がおましてもうすぐお見えになるかと。」
 その声が終わらないうちに扉が開いて小髯が入ってきた。
「またせましたかいのー。」
 例によってあたりを睥睨しながら、山路、伊川の後ろをとおり七陸の隣に
座った。
「これで、全員そろったわけやな。」
 山路が、みんなの顔を順番にみながら七陸に確認した。
「はあ、顧問だけが入院中なんで。」
「それは聞いてる。ほんで話ちゅうのはなんやな。」
「はい、実は・・・・。」

 そのあと、何がはなしあわれたのかは分らない。一時間後伊川は機嫌
良く、その場の分を皆支払い山路と一緒に帰っていった。
 入れ違いに盛土がはいってきた。
「おー、ひさしぶりやのー。かしら、話はついたんかい。」
 盛土は、先ほどまで伊川が座っていた席にすわりながら話だした。
「ん?どうなったんじゃい。」
 そのとき、今まで黙っていた小髯が口を開いた。
「ちっ、七陸の手にまんまとのせられたわい。」
「というと?」
「とりあえず、親父とは手打ちじゃ。」

組長・伊川

若頭・小髯

補佐・盛土
 「ほうか、よかったわいや。」
  無邪気に喜ぶ盛土を横目でみながら、小髯も苦笑いを浮かべビールに手をのばした。
 「もう一辺、のみなおしじゃ。今日はとことん飲むぞ。」
  盛土は七陸の耳に口を近づけ
 「何や知らんが、親父と兄貴の仲はうまくいったみたいじゃの。」
  とささやいた。
 「おう、何とかきりぬけられたわい。」
  と七陸もうまそうにビールを飲み干した。
 「これで心配の種はつきたな。植山の兄弟もよんだるか。」
  盛土は、携帯をとりだした。
 
  そのとき、風のように扉をあけて入ってきた一人の男がいた。七陸が何気なくその男の方をみた。
 「・・・・・・・・・。」
  何か叫んで、七陸が手をベルトのベレッタにのばそうとした。
  それよりはやく、その男のコルトパイソンが火を噴いた。
  『パン、パン、パン。』
  三発の銃弾の音が、店内に響き七陸がイスから崩れ落ちた。
 「てめえ、坂虎の・・・。」
  小髯は懐からトカレフを取り出したときには、その男は背をみせて逃げようとしていた。
  『パン。』
  小髯の壱弾はその男の、頬をかすめて向かいのパン屋のシャッターにめり込んだ。

 「兄弟!」
  盛土が七陸を抱きかかえたが、返事はなかった。
 「くそ、逃がした。」
  男を追いかけていた小髯が、戻ってきた。
 「どうだ、七陸の具合は。」
  盛土と小髯の目があった。
  『う〜〜〜〜。』
  ママが連絡した救急車のサイレンの音が夜の街に響きわたった。


     その13、終わり

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