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          その12、(危ないところでした。その11が遺作になるところでした。)

           子飼いの若衆を前後に三人従え、植山が「はなちゃん」の暖簾をくぐって入ってきた。
          その鋭い視線の先には、補佐筆頭の七陸一人しかいなかった。奥には一般市民二人が座ってい
          た。
           静かなるスーの異名どおり、植山はだまったままで七陸の隣にすわった。久しぶりの邂逅なのに
          互いに挨拶もしない。植山の若衆達は、二人から少し離れた入口のところに並んで座った。        

           七陸もチラリと植山の顔を一瞥しただけで、苦い顔のままで杯を傾け続けている。
          気をきかしてママが七陸に声をかけた。
          「わ、いや七さん。植山さんがきたわよ。」
           そんなもの、きた時からわかっている。余計に七陸の顔がにがくなった。
           十分もたったころ、七陸がやっと口を開いた。
          「おそかったやないか。」
           左手で、お手拭をまるめていた植山がやっと七陸の方を見た。
          「かしらは?」
           ボソッと殆ど聞き取れないほどの、小さい声で植山が始めて口を開いた。
           それに答えて七陸も、廻りに聞こえない小さな声で、
          「今まで一緒やったんやけど、ついさっき女の所へいったわ。」
          「坂虎の外道は?」
          「かしらより、ちょっと先にでていった。」
           言いながら七陸は植山を睨みながら
          「兄弟、坂虎が敵に廻るかどうかまだわからへんで。」
          「ほな、なんでわしを呼び戻したんや。坂虎が絡んでるんやろが。」
           植山の左手のお手拭が綺麗にまん丸になったころ、七陸は立ち上がった。

           ママに会計をしてもらいながら七陸は、植山の方に視線をうつし
          「とりあえず、兄弟は例の所に居ってくれ。また連絡するわい。」
           と言って店をでた。このときすでに七陸を狙って、坂虎組のヒットマンが動いている事を
          二人は知るよしもなかった。

             その12、終わり

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