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         三、最後の隊長

        甲陽鎮撫隊が奮闘のかいもなく、土佐の板垣退助が率いる、東山道軍に散々にやぶれて江戸に
       引き返してきたのは明治元年三月七日の事であった。
    
        江戸に戻った永倉新八と原田佐之助達は、永倉の友人のニ百石の旗本である、芳賀宜道(旧名
       市川宇八郎)と組んで、靖兵隊に参加した。二人以外では林信太郎、矢田賢之助、前野五郎、中条
       常八郎、松本喜二郎らもついていった。

        永倉、原田たちと別れ、近藤と土方は残りの隊士達と下総流山に陣をしいた。
        この頃になると京以来の同志は既に三十五、六名になっている。今回私がこの短編集で書こうと
       している漢(おとこ)たちは殆どこの中に含まれている。

        近藤 勇      土方歳三     斎藤 一
        野村利三郎    松本捨助     相馬 主計(かずえ)
        島田 魁      尾関政一郎    立川 主税(ちから)
        安藤才助      中島 登      横倉 甚五郎
        沢 忠助      三品一郎     長島 五郎作
        蟻道勘吾      大石鍬次郎  v 尾形 俊太郎
        土方勇太郎    近藤芳助      伊東 鉄五郎
        山野八十八    吉田俊太郎    志村 武蔵
        小幡三郎      清水宇吉     梅戸 勝之進
        小堀誠一      岡田五郎     斎藤 秀全
        高橋 渡       松沢音造     畠山 芳二郎
        市村鉄之助     田村銀之助   
                           以上の他にここにきて募集した、隊員たちもいる。

         東山道軍の別働隊である、薩摩の有馬純雄(すみお)と水戸の香川敬三が率いる、彦根藩の兵
        二百名が新選組の本陣を囲んだのは慶応四年四月二日の昼頃であった。。
         本陣のなかでは近藤と土方が、最後の話し合いを行っていた。
        「歳、昨日あたりから、物見らしい影がちらほら見えていたが、とうとうやってきたみたいだぜ。」
        「そのようだな。」
          歳三は窓から外をみながらつぶやいた。
        「もうこのへんで終わりにするか。」
         比較的、明るい表情で近藤がたちあがったが、土方はそれには答えず外を見続けていた。
        「とりあえず、あちらの言う話をきいてくるよ。」
         そういうと近藤は近習の相馬主計を呼び準備をさせた。他にもう一人野村利三郎と相馬を
        護衛として供につけ、近藤は有馬の方に近づいていった。相馬は作法杜通りに刀を抜いて、頭上で
        廻しながら近藤を護るようにして歩いた。
         有馬の前にくると近藤は、大久保大和というその頃名乗っていた名札をだした。有馬も名乗りながら
        東山道軍軍の本陣のある粕壁まで同行してほしいといった。それに対して近藤は後始末があるといい
        、有馬の承諾を得て一旦はもどった。そのあと多少のやりとりがあり、今度は本当に最後の別れを土方
        とかわし、先ほどの相馬と野村利三郎の二人をつれでていった。それが土方との最後の別れに
        なろうとはこのときは思わなかった。

         相馬と野村は近藤の馬の、轡(くつわ)をとって最後まで付き従った。粕壁について近藤は二人に
        短刀と書籍等を形見わけのようにあたえた。
        「先生。」
        「何、心配するな。話さえわかってもらえば明日にはもどる。」
        「相馬くん、総司のことを頼んだぞ。」
         大丈夫と言いながら、総司のことをきずかっていた近藤の本心はどこにあったか。今ではしるよしも
        ないが。

         このあと土方は官軍(薩、長、土及びその他の西軍)の隙を見て、残りの隊士達と会津をめざして落ち
        のびた。土方はその後、宇都宮から会津その他を転戦し最後は幕府脱走軍の陸軍奉行並となって、
        官軍を散々苦しめたが、榎本武揚の降伏を聞いて函館の松前表通り一本木関門において、馬上指揮
        中に銃弾を一斉に浴びて戦死した。明治二年五月十一日の昼下がり、享年三十五歳。このとき落馬
        した土方の首を落として、近くの河原に埋めたのも相馬であるといわれている。

         このあと、土方を失った新選組は相馬を隊長に仰ぎ、最後まで抵抗した。
        
         この小説は新選組の軌跡を追っていくのが趣旨ではない。無名ではあるが確かにこの時代に
        生きた、選ばれた漢(おとこ)たちのことを少しでも知って欲しくかいている。筆力のない私なので描き
        足らずについ、足跡をおうような結果だけに終っているのは心苦しいが。
        



           三、最後の隊長おわり、


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