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          第三章
         「ローン屋さんがやばめなんですか?」
          二重の瞳を必要以上におおきくし、涼子は課長の野次に聞いた。
         「ローン屋さんといってもいろいろあるのさ。」
          使い慣れない標準語でしゃべりながら、鹿目田がヒソヒソ声でささやくように言った。
          それでも世間しらずでお嬢様の涼子にはわからない。
         「それわやな・・・。」

          二つの事務所がちょうど同じ時間に休憩しながら、無駄口をたたきあっているのを少し離れた場所
         から冷ややかに見つめているもう一つの集団があった。同じく淡路町ビルの2階に同居している、小
         さな商事会社である大和の社員たちである。
         「やれやれ、狭い上によけせまなるやん。」
          社員の一人である平他が不満そうな声でつぶやいた。
         「ええやん、若い女の子もいてそうやし。」
          それこそどっちでもよさそうな声で、同僚の名賀尾がそれにこたえた。さらに
         「ねえ、和治主任。」
          と後ろで机の上に脚をなげだして、ふんぞり返っている男に声をかけた。
         「ああっ?」
          と、急の休日出勤で頭にきている和地がそのままの不機嫌な声で返事をし、さらに
         「名賀尾、どっちもはよ終るようにゆうてこい。」
         「ええっ?問頑さんにはゆえるけど、ピンクさんにはよういいまへんわ。」
         「ちっ。」
          本当は大和商事は今回の引越しには関係ないのであるが、やはり図面どおりとはいかないだろう
         と万一のレイアウトのずれによって、大和も影響が出ないとは限らないので和地以下2名のばか、
         いや部下と立会いをしていたのである。

         「ピンクがどうしたんや、今日きてるんは大多さんやろ。海戸さんやったら俺も怖いけど。」
         「そうですね、大多さんはサングラスかけて、恐そうにみえるけどほんまは仏のこんさんと皆に
         呼ばれているぐらいですからね。」
          大多の名前は根太(こんた)というのだ。
         「それに比べて、海戸さんは一見やさおとこにみえるけど、なんせ・・・・。」
         「何せ、何ですかィ。」
         「なんですかィって、あれや。」
          突然の後ろからの声に名賀尾が振り返りながら、その声の主を確認しょうとした。
         「あれやって?」
         「・・・・・・・・。」
          三人の後ろにはカミソリうーみと呼ばれている男が、クーラの風にそよぎながら立っていた。

            第三章終わり
  
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