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            第二章
         (せっかくの日曜日に仕事、それも引越しだって?)融資担当の森は、舌打ちをしながら
        書類や雑品が入ったダンボール箱を、自分の机の上にドスンと置いた。その隣でこれも何か
        愚痴っていた宇目咲が森をにらみながら、
        「もっと静かにおきやがれ。」
         といった。朝から機嫌の悪かった森は、それを聞くと宇目咲をにらんだ。
        「俺に当たるなよ、俺だっておもしろくないんだから。」といいながら、社員を指揮している融資課長の
        大多の目から隠れるように、タバコを取り出し吸い始めた。
   
        「ほんまに今日は、ウオ−タバイクのインストラクターのバイトがあつたのに。」
        スポーツなら何でもこなせるという森は、本業のほかにもいろんな事で稼いでいた。
        「ああ、燦燦と輝く太陽。その下で思い切りバイクを飛ばしてみたい。何が悲しゅうて日曜日に
        クーラもきかへんこんなとこで、汗たらして机なんか運ばなあかんねや。」
        「うるさいわ、ええかっこゆうてるけど女の生徒と、じゃれあおうと思ってるだけやろが。」
        「俺なんか久しぶりのサバゲーの日やったんやで。」
         茶髪のロン毛の森に対して、髪を短く刈り込んだ宇目咲は本当に悲しそうにつぶやいた。
     
         ふたりが勤めているローン会社のローン・ピンクは、この淡路町ビルの2Fに7年前からはいっており
        2Fの半分のスペースを占めていた。しかしこの不況のおり、ビルのオーナーから賃貸料の値上げの
        変わりに事務所を半分に減らす事にされたのだった。もともと広いスペースはあったので半分といっても
        少し窮屈になる程度ではあったが。その残りの半分に同じビルの7Fから、おもちゃを扱っている
        オフィス問頑という会社が移ってくる事になり、それが今日ということでローンピンク、も急遽レイアウトの
        変更を余儀なくされたのであった。

         隣の事務所が休憩タイムにはいったのを見て、課長の大多はサングラス越しに鋭い目で
        今年入ったばかりの、見習社員の末元に声をかけた。
        「末、この辺で休憩といこうや。悪いけど皆にコーヒーでもいれたってくれるか。新しい湯沸かし室は
        トイレの横や。」
        「はいっ。」要領がわからずうろうろしていた末元は、張り切った声で湯沸かし室の方に向かった。

         末元がいくと先客があった。それは隣の事務所の事務員である涼子であった。

             第二章、終わり

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