その23、裏切りの報復
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植山はベッドに腰掛けながら、おもむろに受話器を取り上げ、フロントを呼び出した。
「はい、フロントです」
「ああ、402号の植山じゃが」
「植山様。御用件は?」
「モーニングサービスを頼みたいんじゃがバター」
「はっ?」
「いや、モーニングサービスじゃ」
植山は少し照れながらいいかえした。
「はい、どうぞご注文を」
「表サンドとレモンティー」
「はっ?何サンドでしょうか」
「表サンドじゃ。浪花にはないんかい」
そんなもん、日本中どこ探してもあるかいと思いながらも、昨日のチェック時に見た植山の
凄みのある風体を思い出し、ここは逆らわないようにと
「わかりました。表サンドにレモンティーでございますね」
当り障りなく、言い返した。
しばらくして、ノックの音があり皿一杯のサンドイッチとレモンティーのセットを持って、ルーム
サービス係が入ってきた。
「お待たせしました」
「おう、そこにおいてって」
植山はチラリとサンドイッチの方を見ながら、伝票にサインをした。それは量は多いが普通
のサンドイッチのように見えた。
「おい、これが表サンドか?」
「はい、おもていサンド」
レモンティーにブランデーを注ぎながら、植山は考えにふけっていた。
三代目や、七陸の兄貴たちとは永い付き合いだったが、それも今日おわるのだ。思えば
永い付き合いだった。特に七陸の兄貴とは10年以上にもなるか。
植山は時計に目をやった。まだ朝の7時である。三代目たちが例の店で落ち合うのは午後
8時ぐらいだと情報が入っている。もう一眠りするか。植山はベッドに体を預けた。
しばらくうとうとしていたが、植山は何か気になる事があった。それが何かわからない。
突然、植山はベッドから跳ね起きた。
(そうだ、それだ。そうだったんだ)
よく考えてみると俺と三代目たちと、争う理由がない。豊潤の盟約を誓ったなかではないか。
これは誰かが裏で絵を書いているに違いない。俺達を自由に操り、お互いに殺し合いをさそう
としている存在。紙・・・・・・。いや、髪・・・そうや、散髪もいかなあかんなあ。こ、これもわざと
違う方向に話をもっていこうとしている。
そう、神の仕業だ。この小説を書いてる奴、神という名の男の作った事だったのだ。それで
総ての合点が行く。そうはいかんぞ。お前の都合よくは生かさない。植山は愛銃を取り出し
銃口を口にくわえ、ゆっくりと引き金を引いた。
その23、終わり
とある居酒屋で、終わり
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