その21、さくら戦線異常なし
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あるマンションの一室、そこに4人の男達がいた。
若頭の那賀をかしらに、真丸、中田、森森の三井墨友興業の若手の面々である。
「で、その植山と言う男をやりそこなったと。ほんでそいつが、昨日からこっちへ戻ってきてるち
ゅうわけやな」
「へい」
「ほんで、2週間前に江戸で奴を狙った、森森を逆に殺そうとしてるちゅうことやな」
「そうらしおま」
那賀と真丸の話に、中田が言葉をはさんだ。
「かしら、七陸の叔父貴から森森の兄貴に、しばらく身をかわせとけちゅう連絡が」
「よっしゃ、とりあえず森森はしばらく身をかくせや」
「いまからでっか?」
「そうや」
那賀は財布から50枚ほどの札束を取り出し、森森に渡した。
「とりあえず、北九州の宮元の兄弟の組に話つけたあるさかいに」
「へい」
札束を受け取った、森森はその場から離れた。
地下鉄の駅に向かいながら、森森はあたりに目をくばり人目をさけつつ、階段を降りていった。
改札口で切符を買うために、ポケットから小銭を出し券売機に、入れようとしたそのとき横合い
から男がふらりと現れた。
「森森やのう」
突然の事に驚愕の表情を浮かべ後ずさる森森。
「往生せいや、戦闘士聖也」
(わかるひとだけ、分ってください)
植山のワルサーが火を吹き、森森の体はコンクリートの床にたたきつけられた。
それを横目に見ながら、植山は階段を小走りに駆け上がっていった。
「かしら、森森の兄貴がやられました」
「なんやと、おそかったか」
「ほんで森森は?」
「へえ・・・・・・」
「かわいそうに、殺されよったんやな」
若頭の那賀は、ポツリと呟くように言った。
「へい。頭の天辺を」
「フンフン、頭の天辺をうたれよったんやな」
「天辺の髪の毛を10本程、とばされましてん」
「頭の天辺を飛ばされたんか」
三井墨友興業の若手が漫才をしている時、植山は次の獲物を求めて街を俳諧していた。
(次の獲物は、先日盛土の兄貴と一緒にいた、カトレア会とか言ってた奴ら。そしてあの三人
三代目、七陸、盛土の兄弟)
俺の廻りは敵ばっかりか・・・植山は寂しい気持ちに襲われた。そして携帯電話を取り出して
番号をプッシュした。相手は浪花妻である、阿茶だった。
『ルル−、ルル−』
コールが空しく響く。
すっかり江戸の人間になった男に、浪花の夜の風は冷たく吹き付ける。この男に安寿の地は
ないのだろうか。
その21、終わり
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