とある居酒屋で
その20、花丸一家の内乱
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上野駅は人ごみで混雑していた。その雑踏を掻き分け手歩きながら、男は改札口を目指していた。
その鋭い目は、燃えるようにぎらついている。
男の名は植山元(もと)、花丸一家三代目組長補佐の1人である。同じ組長補佐の盛土と並ん
で花丸一家の龍虎と呼ばれている。
彼がなぜ上野駅にいるのか。それには数日前にさかのぼらなければいけない。江戸でできた
愛人と一緒にいた所を、ヒットマンの一人に狙撃され数少ない髪の毛を更に減らされた植山は
復讐の怒りに燃えていた。
(俺を狙った奴、あいつだけはゆるせん。必ずこの手でしとめてやる)
と心の中で何度も繰り返しながら植山は改札口を潜り抜けた。
(確かあいつは元、七陸の兄貴の下にいた奴だ。確か森森とかいったけ。うん?すると後ろ
で糸を引いているのは七陸の兄貴か)
そう思うと、納得がいく。去年かしらと俺達、補佐を集め豊潤同盟とか言って帯同を計っ
ていたが、するとあれも総て俺を安心させる為の作戦だったのか。今回の一連の襲撃で奴ら
に襲われていないのは、かしらいや今は三代目となった小髯の親父と、盛土。そして七陸の
兄貴だけだ。くそ俺をはめやがったな。
植山はスーツの上から胸のベレッタを押さえ、凄まじい笑みを浮かべた。前に座っていた
サラリーマン風の男は、あわてて植山から目をそらし眠るふりをした。
そうだ3人とも一緒にかたずけてやる。植山は携帯電話を取り出し盛土に電話を掛けた。
「ルル、ルルルルルッ」
呼び出し音が響く。
「ガチャッ」
「・・・・・・」
「盛土か?」
「誰なぃ」
「ワシじゃイ。植山じゃ」
「・・・?植山っ?」
盛土は信じられない物を聞くように、受話器を握りなおした。
「お前、無事なんか」
「おかげさんで、髪の毛2,3本減らしただけですんだわい。最もワシにとっては命よりも
大事なもんじゃがのう」
「ほうか、それは良かったのう。連絡が取れんで心配していた所じゃ」
「・・・・・・」
植山は黙って、返事をしなかった。
「それで今どこにおるんじゃ?おやっさんも心配しとるよう」
「親父が?」
「そうじゃ」
「それは心配するがや。で、いまどこにおるない」
「それはいえんよう。とにかく今からそっちにいくけん」
「き、兄弟」
ツーツーツー
電話は切れていた。
〈ところで話は変わりますが、会話が広島弁風になったり、関西風になったりするのを
おゆるしください。江戸生まれの私にとって広島と大阪の区別がつきにくいと言う事で〉
それから1日がたち、植山は護衛も連れずに一人『はなまる』の店先に立っていた。
店のなかには、盛土と2人の男が既に待っていた。
盛土は植山を目に捕らえると、慌てて立ち上がり
「う、植山。えらい早い帰りじゃったのう」
と、うろたえながら言った。
植山は盛土に目をやりながら、隣の2人組みの男に目を光らせた。
その視線に気づいた盛土は
「この2人はカトレア会のお客さんじゃ」
と、取り繕うように言った。
「カトレア会?」
カトレア会とは、最近神戸で勢いを増してきた中国系の新興団体である。イケイケの
武闘団体で有名なところだ。
(カトレア会と盛土が?)
七陸チルドレンの次はカトレア会か。何かワシの知らない所で何か、策謀が動こうと
している。七陸の兄貴、去年の豊潤同盟はなんだったのだ。ワシを、花丸一家をどうし
ょうというのだ。
「まあ、すわりない」
盛土は植山に声をかけた。目は油断なく植山の手の動きを見ている。
植山は少しの間、そのままの姿勢で盛土とカトレア会の男達の動きをみていたが
「盛土、またくるわ」
といいはなつと、突然ドアをあけて出て行った。
「植山!」
カトレア会の男達はその後をおった。
それからしばらくの時間がたち、小髯三代目と七陸が相次いで姿をあらわした。
「おやっさん」
「身をかわされたそうじゃのう」
「カトレア会の連中が一緒だったのがまずかったみたいですわ」
「うん、あいつらは牙狼みたいなもんじゃからのう。殺気でばれたんじゃろう」
「どうします?」
「まあチャンスはこれからもあるやろ。別に計画が植山にばれたわけじゃないやろし」
といいながら、小髯は七陸のほうを振り返った。
へぃ、というように七陸は懐からあるものを取り出し、2人の前に置いた。それは
肉まんであった。それを3つに分けて小髯と盛土の前にそれぞれ置いた。
「こ、これは?」
「この際、もう一度固めの杯をしようとおもっての」
小髯は自分の前に置かれた肉まんの1つを手に取った。後の2人も手をのばしそして
同時にそれを口に入れた。丁度、時計は5時51分を指していた。
世間ではのちに、このことを551の誓いというようになった。
そして一人となった、植山はこのあとどういう行動を取るのだろうか。また植山が
狙われた理由とは、新しく登場したカトレア会と七陸チルドレンを操る七陸の動きは・・・
その20、終わり
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