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WHO IS 本命!?






ここはブラス城。

新たに炎の英雄が誕生し、
ハルモニア軍の脅威を、とりあえずは退けることができた
ゼクセン、グラスランド両陣営の首脳がサロンに集結していた。

ようやく本拠地となるべき場所も見当がつき、一息いれようとしているところであった。

「ではサロメ殿、夜が明けたら先陣をそのトーマス殿の城へと向かわせるということでよいな」

カラヤの族長ルシアがサロメに確認を取る。

「ええ、先ほどの戦いで皆の疲労も限界と思われますな。今日は休んだほうがよいでしょう」

「そうだね。では私たちはここにいさせてもらうよ。」

ブラス城は広いとはいえ兵士の数も半端ではない状況で
グラスランド勢の首脳陣の面々に対してほかに通せるような部屋もなく
サロメにとってはありがたい申し出だった。

「助かります。どうぞごゆっくりなさってください。私は私室に戻りますゆえ。」

手を組む…といってもさすがに同じ部屋でゆっくりくつろげるほど
両者の溝が埋まったというわけではなかった


サロンを後にし私室へと向かうサロメに声をかけるものがいた。

「おい…」

ジンバだった。

「ワイア……いえ、ジンバ殿?いかがされましたかな?」

不意に声をかけられたものだからついかつての呼び名が口をついてしまい、あわてて訂正する。
幸いあたりには人影もなくひとまずは大丈夫と胸をなでおろす。

「ちょっとな。」

ただならぬ表情のジンバに事の重大さを感じ取る。
第一、人がいないのを見計らったからとはいえ、
このような場所で自分に声をかけてくる事自体がよほど急を要することだと示していた。

「ここで立ち話も何ですので私の部屋へ参りましょう。」







パタン

「おいどうなっているんだ!俺は聞いていないぞ!」

部屋に入り戸を閉めたとたんサロメに掴みかからんばかりにジンバがまくし立てた。

「な、何の事ですか!?」

さっぱりわからないサロメである。

「クリスの事だ!!!」

「クリス様…ですか?」

やっぱりさっぱりわからない。

「遠くから様子を伺っていたら男がいっぱい寄り付いているじゃないか!!」



 
 …………


 …この人は、そんな事で自分に声をかけたのか??



そう思うと一体何事かと構えていた分どっと力が抜ける。


 かくも娘を思う父親というものは取り乱すものなんだろうか…


そんなことを感じながらもサロメは冷静に対応するよう努める。

「……仕方ないでしょう…騎士団長なんですから…」

しかしそんな答えでは引き下がらない”父親”である。

「それだけじゃないだろう!?皆下心がありそうだった!!」

「下心…って、」

思い当たる人物やら、思い当たる節がありすぎて
”そんなことはない”と否定できない正直なサロメであった。

ジンバの追及は止まらない

「で、実際のところはどうなんだ!?」

「実際って?」


 そんな、次から次にわからないことをおっしゃられても…。


返答に困り、再び聞き返す。

「クリスの本命だよ。」

「し、知りませんよ。」

知っていてもこんな状態のワイアットには言えそうもないが
実際こっちが知りたいくらいである。

「知らないってどういう事だ」

納得のいかないジンバはサロメに詰め寄る

「そんなこといわれましても…」

サロメが答えに窮していると、

そのとき


コンコン

部屋にノックの音が響く。



「!!!?」

「(どうしましょう?ワイアット様)」

「(隠れているからさっさと用件をすませてしまうんだ)」

「(わ、わかりました)」

声を潜めて、すばやく言葉を交わし、ジンバはクロゼットに身を隠した。
ともかく、二人でいるところを誰かに見られるのは後々面倒である。


 怪しまれずに早急に追い返さねば…


一呼吸おいてサロメはノックに答える。

「はい。どなたでしょう?」

「サロメ!」

待ち構えていたようにサロメの返事と同時にドアが開けられる。

「クリス様!?」

そこには先ほどまでのやり取りの張本人―クリスが立っていた。

「(クリスだって!?)」

心中穏やかでないのはワイアットである。
しかし出て行くわけにも行かず、ずっと息を潜めて成り行きを見守ることしかできない。


「…なんだか、ゴタゴタしていてきちんと話せなかっただろう?」

「そうでしたな」

クリスがゼクセン騎士団と合流してからは戦いの連続で、
落ち着いた会話らしいものをしていなかったことを思い出す。

「戸口では何だから、入らせてもらうぞ」

「は、はい…」

自分の見知ったことを一刻も早く伝えようとしてくれているのだろう、
クリスは有無を言わさぬ口調で部屋に入って戸を閉めた。

私室であるがゆえにサロンのようなソファがあるわけでもなく、
部屋には机と本棚、クロゼット、ベッド…といった最低限のものしか揃っていない。
とくにサロメの場合書籍に大半のスペースが占められていた。

そんな部屋だからクリスは迷わずベッドに腰掛けた。

「あ、クリス様…そのような」

「ん?どうしたのだ?」

全く気にかけていないクリスに下手に注意できるはずもなく…

「いえ。何もおかまいできませんで…。」

できるだけ意識しないよう窓際にたって外の景色を見たりなんかするサロメである。

「気にするな。今日はサロンも厨房も満員御礼だ。
その、こんなところまで押しかけるわたしが悪いんだが…。」

あわてて振り返り、サロメはクリスの言葉を遮る。

「クリス様。そんな事はございません」

そして心の中で懺悔する



ワイアット様…すみません…。
わたしにはクリス様を追い返すことなど…


それに…

ワイアット様にクリス様の父親を想う一途なお気持ちが伝われば…。

―と、そんな思惑も混同する。



「聞いて、くれるか?」

「はい。」

そしてクリスはグラスランドでの出来事をサロメに話し出した。







「やっぱり、父は生きていたんだ…。
これで、少し父に近づけた気がする。」

サロメは胸に痛みを感じながら、クリスの言葉を黙ってかみ締める


真の紋章を守るためであり、

真実を告げないことがワイアットの望みである

とはいえ…

クリス自らの手によって事実を知るべきだと思いつつも真実を告げることのできない自分に
サロメはどうしようもない歯がゆさを感じるのだった。


「皆が、…お前が、私を助けてくれたから私はここまでこれたんだ」

「クリス様のお力ですよ」

ふるふるとかぶりを左右に動かすクリス

「あのときの、サロメの後押しがなければ私はグラスランドへ行けなかった。
あの言葉があったから、帰る場所を残しておいてくれたから、
わたしは…」

「クリス様…。そんなクリス様だからこそ皆がついて行くのです。」



…そして、私もそんなクリス様だから…



「ありがとう。」

クリスはすっと立ち上がり傍らに立っていたサロメと向かい合い
感謝の気持ちを込めて両の手でサロメの手を包み込む。

父が生きていた―という高揚感からなのかその薄紫の瞳は潤み頬は紅潮していた。

「…こうしておまえがいてくれるからわたしは……」

クリスは頭をサロメの胸にうずめ、そっと寄り添った

「ク、クリス様…」

本来ならばこんなに喜ぶべき出来事はないのだが……

冷たーーーい視線を背後に感じながら、
クリスの肩に手を置くことすらできずに完全に硬直するサロメである。



クリス様…タイミングが……悪すぎます







「すまなかったな。戦で疲れているというのに時間をとらせて」

「いえ、そんなことは」

「おまえに一番に聞いてほしくて…
こんなふうに父のこと話せるの、サロメだけだから…」

サロメがワイアットのことを知っている

クリスにしてみればその言葉どおりの意味ではあったのだが…
ワイアットにしてみればそれは決定的な言葉になったようである

さらにクリスはお構いなしに追い討ちをかける

「だめだな、私は…すぐこうやっておまえに甘えてばかりで…」

”頼りにしている”とそういう意味なのだが…

「こんなままでは騎士団長失格だな、」



そしてとどめの一言―。



「……皆には内緒だからな」

そう言ってはにかんだような笑みを残しサロメの部屋を去っていった。

「クリス様…(ああ、やっぱりかわいらしい…)」

つかの間の幸せに浸るサロメ。
どうやらワイアットが見ているということはクリスの笑顔で完全に吹き飛んだようで、
すっかり失念しているようである。


しかし、

現実とは厳しいものである。


いつもは見ることのできない緩みきった表情のサロメを現実に引き戻すような低い声が部屋に響き渡る。

「……サロメ……」

「へっ!?あ、ワ、ワイアット様!!?」

「…ほ〜ぅ。…おまえだったのか。…”本命”。」

「は!?ち、違いますよ。わ、私は…その…ワイアット様にかわってクリス様をお支えしようと」

「なんだ!?それではクリスのことが嫌いだとでも!?」

クリスにつく悪い虫は排除するが、クリスのことを悪く言うものも許さないという親心なのだが
当のサロメにはとんだとばっちりというか…八つ当たりというか…

「とんでもない!私は一生をかけてクリス様に付き従うと、忠誠を誓っております、
ですが、その…私も、クリス様の魅力に当てられた数多の一人、ですから…」

「ほう…」

その言葉と、さきほどのクリスの様子と、自分の豊富な経験と、サロメの性格を考えて、
ジンバはどうやら二人の関係を見極めたようである

「……そうか。」


―まったく、こいつらは…鈍いというのか…ある意味あついというのか…


「まあ、そういうことにしておいてやる」



―お前達を見守っていくことにするか…


―今のところは、な…



「ほっ。」

ようやく解放され嘆息するサロメであった。







「はぁ〜〜」

やっと一人になり、サロメは部屋でため息をついた。

「……長い…一日、だった。」

その一言を残しベッドに沈み込む。



ハルモニアの侵攻に応戦しているときよりも、

なぞの破壊者たちの暗躍を調査しているときよりも

ずっとずっと神経をすり減らし、休むどころかますます疲れがたまってしまう苦労症のサロメだった。




クリス様、無意識のうちにお誘いモード全開です(笑)
父公認の2人…というのを表現したかったのですが
う〜ん。上手くいかないですね…
なんか書きながら、ワイアット様のこと考えると
切なくなってしまった…
パパ視点でこのお話書いてみたい気も…







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