「うん。やっぱりサロメの料理は美味しいな」 近頃クリス様はサロメ殿の作った朝食をいただくことが日課になっていました。 「光栄です。」 サロメ殿がうれしそうに答えます。 「…やはり女性たるもの料理くらいできないといけないだろうか?」 クリス様はふとそんなことばを口にしました。 「料理…ですか?」 「パーシヴァルもルイスも料理をたしなんでるというのに…わたしは…」 クリス様もれっきとした女性です。 そのように思い悩むこともあります。 「クリス様はワイアット様以上のすばらしい騎士におなりです。 その上料理まで作れなどという者はおりませんよ」 サロメ殿はクリス様が一生懸命に努力して騎士になったことを知っていました。 そんなクリス様が女性らしいたしなみを犠牲にしてきたことも十分に承知していました。 だからそんな必要はないんだよ、とクリス様に諭します。 「…だが、一応わたしも女性だし……」 「…挑戦されますか?…もしわたしでよろしければお教えしますが?」 それがクリス様の望みならそれをかなえて差し上げるのがサロメ殿の望みです。 「え…サロメが…?でも…」 いつも料理を作ってくれるサロメ殿のために作ってみたいと考えるクリス様です。 サロメ殿のありがたい申し出にも返答に窮していました。 「……わたしではいけませんか…?」 そんなクリス様の思惑など考えに及ばないサロメ殿は 口調は穏やかながらも少なからず傷ついていました。 「あ、そのっ…ちがうんだ。サロメにはわたしの作った料理を食べてほしいんだ」 「…なるほど。わたしは味見役というわけですな。 では指導役はどうされますので?」 「いや、その…味見役って…??」 著しく勘違いをしているサロメ殿でありました。 結局クリス殿は従者のルイスとともに料理を作ってみることにしました。 「それでは今日はカレーライスを作りましょう」 「うん。なんだか基本というかんじで簡単そうだな。」 「ええ。きっとクリス様も美味しいカレーライスを作れますよ。」 「材料はどれだ?食糧庫か?」 そういって辺りを見回すクリス様。 それもそのはず周りには料理の材料らしきものが見当たりません。 「いえ、ヤザ平原のストーンゴーレムから作ります。」 きっぱりとルイスが答えます。 「ストーンゴーレム!?」 そういえば…ルイスはよく戦闘の後に料理を作ってたけど… クリス様の脳裏にいやな考えが浮かびます 「料理ってモンスターが原料なの!?」 「はい!」 ”にっこり”と無邪気な微笑みを返すルイスでありました。 「そ、そう」 「クリス様はお強いですからどんどん食材が手に入りますね!!」 「……今から仕入れに行くのね」 「はい!」 やはり”にっこり”と笑うルイス。 その無邪気な微笑みはまさに天使の微笑みに見えるのですが クリス様にはそれがなんだか悪魔の微笑みに見えてなりませんでした。 「それからクリス様モンスターを倒すときはできるだけ同じ大きさに 切り刻んでくださいね。火のとおりを均一にする大事なポイントです!」 「わ、わかったわ」 そして二人はヤザ平原に向かうのでした。 「それで…ヤザ平原でストーンゴーレム相手に料理を?」 「ああ。」 ところ変わってここはブラス城。 クリスの料理を待っていたサロメ殿にクリスはこれまでのいきさつを話します。 「それで料理はできたのですか?」 「できなかった。」 がっくりと肩を落としうなだれるクリス様。 「仕方ありませんよ。よほどの手練でないと料理のスキルは得られないと聞きます。」 クリス様を慰めながらも内心では ”クリス様お手製ストーンゴーレムカレー”なるとんでもなさそうな代物を食べずにすんだことに ほっと胸をなでおろすサロメ殿でした。 「……もう料理はあきらめた。」 とつぜんそう言い出し顔を上げるクリス様。 「決めた!毎朝サロメに作ってもらう事にした。」 「ク、クリス様!?」 「私のために毎朝、朝食を作ってくれないか?」 いきなりの爆弾発言にサロメ殿はうろたえます。 「も、もちろん…構いませんが。その言葉の意味をおわかりですか!?」 クリス様のために毎朝料理を作れるのならサロメ殿にとっては願ったりかなったりです。 しかしここはきちんとその意味をクリス様が理解しているかを確認しなければなりません。 「意味って?」 「”毎朝料理を作る”というのはつまり生計を共にする…という意味で」 言ってて年甲斐もなく赤面してしまうサロメ殿でありました。 「あ…そうか。」 そんなサロメ殿を見て自分の発言の意味を理解するクリス様。 そしてクリス様もまた頬を染めます。 「おわかりになりましたか。」 「ああ。サロメがライトフェロー家の嫁になるということだな。」 「嫁…って」 真顔でそんなことを言ってのけるクリス様とおもわずガクッと肩を落とすサロメ殿でありました。 「ふふ。サロメはいいお嫁さんになれそうだな」 サロメ殿の様子を見て茶目っ気たっぷりに笑うクリス様はとても幸せそうでした。 「クリス様さえよろしければわたしはいつでも嫁になりますよ?」 くすくすと楽しそうに笑うクリス様にさらりと こんな台詞を言ってのけ、 再びクリス様を赤面させてしまうサロメ殿もまた、とても幸せそうででした 料理はできなかったけれど料理上手なお嫁さんをみごと(?)GETしたクリス様でありました。 |
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