一番星、見つけた


「ここにいたのか」

「あぁ。探したか」

「いや、特に用があったわけでは」

「そうか」

 馬場で仰向けに寝転がっていたレックスは、ゆっくりと身体を起こした。
 そのまま立ち上がろうとしたレックスは、そばに腰を下ろしたアイラに視線を向ける。

「どうかしたのか」

「いや。何もないが」

「おかしな男だな」

「そうか」

 首を捻じ曲げていたレックスは、そのまま身体をひねった。
 小気味良い音をさせて筋を伸ばしたレックスに、アイラが苦笑を浮かべる。

「随分と寝ていたようだな」

「あぁ。夕食後はここにいたからな」

「星が好きなのか」

 アイラの言葉に、レックスは目を瞬かせた。
 返事が返ってこなかったことにうろたえたアイラが、ややあわてて取り繕う。

「い、いや、星を見ていたのかと思ってだな」

「あぁ。そんなところだが」

 言葉を切ったレックスに、アイラの動揺が大きくなる。

「な、何だ」

「いや、アンタでもそういう発想はあるんだなと」

 クックッと笑いをかみ殺すレックスに、アイラの顔が赤くなる。

「どういう意味だ」

「いや、女らしくロマンチストな面もあるんだなと」

「似合わなくて悪かったな」

「そこまでは言ってない」

 そっぽを向いたアイラの横顔を堪能しつつ、レックスはある昔話を思い出した。

 それは、彼がまだ幼かった頃の話。
 そして、親友と呼べる仲間たちを得る前の話。

「なぁ、星は何も語らないって知ってるか」

 レックスの問いかけに、アイラが空を見上げる。

「……確かに、星に声などないが」

「いや、もう少しロマンチックに考えてくれ」

「星には色々な逸話がある。そのことか」

「少し違うな」

 そう言うと、レックスはもう一度仰向けに寝転がった。
 勢いよく寝転がったレックスに、アイラが視線を夜空から引き戻す。

「よく、こうしていると吸い込まれそうっていうだろ」

「空には無限の空間があり、意識が無限の空間を旅するとかいうものか」

「まぁ、そんな感じ」

「だが、星の声など聞いた人間はいない」

「でも、よくいうだろ。星に願いをって」

「星に願いをかけると、答えてくれることがあるというものか」

「そう、それ」

 伝わったというレックスのアクションに、アイラが表情を和ませる。

「よくある話だ」

「でもさ、答えてるのは、本当は自分なんだぜ」

「自問自答というものだな」

「それだ」

 レックスを見下ろしていたアイラが、視界を遮った髪を右側へと流す。

「人が誰かに相談する時、もう答えは決まってるんだ。
 そして、その答えに自信がある時、人は夜空に相談する」

「随分とロマンチストな言葉だな」

「当たり前だ。俺よりずっと、口の上手い奴の言葉だからな」

「アゼル殿か」

「いいや、もう一人の親友さ」

「ほぅ……お前にもそういう相手がいたのだな」

「あぁ。少しばかり短気で、扱いづらい奴だがな」

 楽しそうなレックスに釣られて、アイラが星空を見上げる。

「私は、星を見るつもりだったのかもしれない。ただ、答えに自信が持てなかったのだろうな。
 だから、お前を探すふりをして外に出てきたのかもしれない」

「それで、どうだ」

「お節介な斧騎士のおかげで、星を見られるようになったようだ」

「それは良かった」

 一呼吸置いて、アイラが立ち上がった。
 レックスは変わらずに空を見上げているふりで、彼女を見送る。

「イザークでは、一番星を見つけると幸運が降るという」

「随分と幸運が安売りされてるんだな」

「あぁ。民を幸福にするには、一日一人でも間に合わないからな」

「なるほど。道理だな」

「だが、今のお前の言葉で理解した」

「そうか」

「やはり、一番星もここにあるのだよ」

 そう言ってアイラが指したのは、彼女の胸だった。

 

<了>