楽しいからいいんだけどさ

矢島×波戸ってありだよな?


 

「ささっ、遠慮せずに入って入って」

「それは私の台詞だろ」

「細かいことは気にしちゃダメっすよ」

 荷物を定位置に置きにいってる間に、ちゃっかりと部屋を物色するし。
 まぁ、別に見られて困るようなもんもないんだけどさ。

「お、やっぱりあったっすねぇ」

「それ、この間のオンリーの新刊だから」

「なるほどなるほど。矢島っちはリバもOKなんすね」

「そうでもない。それは表紙見て買ったから」

 紙コップぐらいはあるって言ったんだけどな。
 あ、でも波戸もいるし、吉武も気を使ってくれたのかな。

「おぉ、これはこれは」

「……って、いつまで家捜ししてんだよッ」

 テーブルを部屋の真ん中に移動させて、買ってきた袋を上に置く。
 ついでに紙コップの封をを開けて、一掴みで三人分を取り出す。

「波戸ちゃんも座るっすよ」

 そう言って、吉武が波戸を私の向かいに座らせた。
 無造作に袋の中からつかんだお菓子は、コンソメポテト。

「あ、皿持ってくるわ」

「あぁ、そんなのいいっすよ。パーティー開けでいいじゃないっすか」

「いや、ま、そうだけど」

「矢島っちは何を飲むっすか」

 ポテトの袋を器用に開けてる吉武にそう聞かれて、私は袋の中をのぞいた。
 随分買ったなとは思ってたけど、これ、酒ばっかりじゃないか。

「なぁ、これ、酒ばっかり……」

「せっかくのガールズトークっすよ。お酒がないと始まらないでしょう」

「いや、普通はジュースとか」

 アルコールなんて、大学に入ってから二、三回しか飲んだことないし。
 大体、家で飲むなんてしたことないし。

「まぁまぁ。乾杯ぐらいはお願いするっすよ」

「う……じゃあ、あまり強くないので」

「カクパーなんて、ジュースと同じっすよ」

「そうですね」

 久々の台詞が同意かよ、波戸。
 それにしても、多いよな、缶の数。

「とりあえず、選べよ。残りは冷蔵庫に入れるから」

「じゃあ、あたしはコレ」

 吉武が選んだのは、マスカットの描かれた缶
 味なんてわからないけどな。

「じゃあ、私はオレンジの」

「あ、私もそれでお願いします」

 あ、被っちゃったか。
 でもま、ちょうど半分ずつぐらいに分ければいいか。

「それじゃ、第十五回、ガールズトークに乾杯っ」

「乾杯」
「乾杯」

 紙コップの乾杯って、音がしないんだな。

 

 


 

 あー、頭痛えー。
 何本飲んだっけ、昨日は。

「……何時だ」

 今日は授業なかったよな。
 少し痛むけど、とりあえず水。

「ふぅ」

 多分、途中でお茶をこっちに出したんだっけ。
 テーブルの上にあったペットボトルからコップに入れて、お茶を飲む。

 喉が渇いていたのか、二杯連続で飲んだところで一息ついた。
 どうにも慣れねぇなぁ、この部屋に私以外の誰かがいるのって。

 まぁ、寂しいなんて思ったこともないんだけどさ。
 誰か来るっていいよなぁ、この感覚。

「あー……マジで泊まったんだ」

 ま、楽しかったからいいけど。

 吉武は……まだ寝てるな。
 波戸もあの時のままの格好で寝てるし。

「私はいいけど、そろそろ起こすか」

 さすがに授業があるとまずいだろうし。
 先にゴミだけ片付けるか。

 片付ける音で起きてくれればいいやと、普通に片付けていく。
 紙コップはまだ余りもあるし、昨日のは捨ててしまおう。

「ん……あ」

 波戸って、寝起きも女声なのかよ。
 私よりよっぽど女なんじゃないの。

 ま……中身は知らねーけど。

「おはようございます」

「おはよう。お茶、飲むだろ」

「はい。ありがとうございます」

 新しい紙コップを出して、お茶を入れて渡す。
 両手で受け取る波戸の指を見ていたのに気がついて、急いで視線を外す。

「波戸は、授業は大丈夫なのか」

「はい。今日はありません」

「そっか」

「うへへ……もう食べれないっすよぉ」

 寝言を言ってる吉武に視線を持ってかれて、私たちはどちらからともなく笑っていた。

 よかった。
 別に気まずくなったりはしてないな。

「朝、食べていくか」

「いいんですか」

「食パンぐらいしかないけど」

「いただきます」

 コンビニまで買いに行くのはなぁ。
 吉武もまだ寝てるし。

 昨日のお菓子を片付けてくれるらしい波戸に吉武を任せて、キッチンに入る。

 冷蔵庫の中の食パンは三枚あった。

 私は一枚でいいけど、波戸って男だろ。
 一枚で足りるのか。

「ま、いいよな」

 一度に二枚ずつしか焼けないし。
 あ、卵があるし、目玉焼きでもつけるか。

「なぁ、波戸。卵は目玉焼きでいいか」

 キッチンから部屋に戻って顔を出すと、吉武が起きてた。

「ほほぅ。矢島っちは尽くすタイプっすね」

「……吉武は卵無しな」

「えぇっ、そんな」

「うるさい。朝も無しだ」

「矢島っち、横暴っすよ」

「最後まで寝てる奴にはやらん」

「あの、お茶、どうぞ」

 気をきかせなくていいって、波戸も。
 しかし、豪快に飲むよな、吉武って。

 オーブントースターの音が鳴って、フライパンに火を入れに戻る。

 目玉焼きぐらいなら焼けるよな、私。

 一度に二つを焼く自信はないので、一つずつ焼く。
 油を多めに引いたから焦げ付きもしなかったし、形のいいのを二人にまわす。

「朝ご飯まで、ありがとうございます」

「まぁ、私の家でやったわけだし」

「持ちまわりっすかね」

「あぁ、そうしてくれ」

 まぁ、大学から一番近いのは私の家だっけ。
 波戸は三十分かかるらしいし、吉武って実家だろ。

 あ、波戸って男だっけ。
 男の家に行くってのもなぁ……そんな気しないけど。

「いただきまーす」
「いただきます」
「いただきます」

 こいつらが帰ったら、シャワーでも浴びるか。

 そういや、波戸ってシャンプー、何使ってるって言ってたっけ。
 吉武も髪には気を使ってそうだしなぁ。

「矢島っち、矢島っち」

「何だよ」

「砂糖、もらえないっすか」

「いいけど、コーヒー用のしかないぞ」

「それで十分っすよ」

 ま、こんな楽しいガールズトークなら、またやってもいいな。

 三人でさ。

 

<了>