『Stand by me』
私の隣にいて。だなんて。
あたし、そんな事言えないのよ。そんなおこがましい言葉で、縛りつけたくなんか。
ごめんなさい、嘘。
ただ単純に、私にそれを紡げる勇気がなかった。
それだけの話。
元より、貴方は私ではなくて、全く別の個体であって。
それは即ち、いつでも手足のように傍にいられるという訳では決してなくて。
それが真実であるならば。
あたしは決して貴方を引き止めてはいけない。
あたしの隣にいて、なんて。
私そんな事言えないの。私にそれを紡げるだけの勇気がなかった。
それだけの話なのだけれども。
それ以上に、あたしはやっぱり女だから。
どんなに世界が変わっても。
私は女で、貴方が男である事に変わりはない。いつの世も。女は待つようにしか出来ていない。
「ねえ、返して」
「あたし、ちゃんと待ったの」
「貴方が帰ってくるのを、待っていたの」
「だから返して」
「私の貴方を返してよ」
私の隣にいてなんて。
あたし、そんな残酷な事言えなかった。
私の隣にいる貴方が
あたしの知っている貴方でなくなっていくのが、怖かった。
知らない何かになってしまう貴方を見るのが怖くて。私にはその言葉を紡げる勇気がなかった。
ただ、それだけの話。