ウサギオイシ……


「なあ、兎って美味しいのかなあ?」
「は?どうしたんだよ急に」
「だってほら『ふるさと』で言うじゃん『うーさーぎおーいし♪』って……どうした?」
「…………」

脱力して、思わずそこに蹲ってしまった。ああ、あいつのとぼけた心配がムカツク。
いや確かに、気持ちは判る。うん。昔ながらの歌って意味不明なの多いもんな。……でもな……

「あのな……ありゃあ兎が美味しいんじゃなくて『兎を追いかけた』って意味だ」
「えっ!?」

どうやら本気で兎が美味しい事だと勘違いしていたらしい……アホかこいつは。
二十年以上も生きてきててなんで気づかねーんだよ……

兎を追いかけてはしゃいだあの山と
小鮒を釣って遊んだあの川
幼い頃の夢は、今でも思い出す事が出来ます
どうして忘れる事が出来ましょうか、あの懐かしいふるさとを

「まあ。今はそんな風景なんざないから仕方ないっちゃ仕方ないけどな」

「兎はペットショップにいるものだよなあ……」
「小鮒ってフナの小さいのか?フナってどんなんだっけ?」
「夢なんてとうの昔になくしたよなあ」

どうして覚えている事が出来ましょうか、なんの冒険もなかったふるさとを

「でも、兎追っかけてみたいよなあ……全部忘れてさ」
「それやったら山中をうろついてた怪しい変人として捕まるぞ。ついでに動物愛護団体から散々叩かれるな」
「じゃあせめて釣り」
「釣堀にでも行くか?味気もスリルもあったもんじゃないけどな」
「………………」
「………………」

二人そろってため息をついた。ああ、俺達はこんな時だけ妙に気が合う。

いかがお過ごしでしょうか、お父さんお母さん
お変わりはありませんでしょうか、私の大切な友人達
雨の日でも風の日でも
思い出すのは貴方達の事ばかりです

夢を必ず成し遂げて
いつの日かこのふるさとに帰ってまいりましょう
山が青々と茂るこのふるさとに
水がさらさらと清いこのふるさとに

「ああ……そんなふるさとに還ってみたいなあ……」