身体測定、歓迎します


 

「先輩、ちょっと聞いて下さいよッ」
「どうしたの?」
「頼子ちゃんが、頼子ちゃんが、50とか言ってるんですよッ」

 ……冷静じゃないのはわかってる。
 でも、でも、50はないだろッ、50はッ。

「霞ちゃん、言ってることがさっぱりわかんないんだけど」
「だから、50なんですってば」
「だから、何が50なのかしら」

 本当に何かわからないんだろう。
 テレビから視線を外して、阿左美部長が私を見ている。

「ウエストです」
「あぁ、ウエストね。そっか、今日、身体測定だったんだ」

 この人は、何でこうも落ち着いてられるんだろう。
 て、言うか、阿左美部長だって今日だったでしょうが。

「それで、霞ちゃんはいくつだったの?」
「うぅ……63です」
「あら、一緒だわ。気にすることないわよ、それくらいだったら」
「でも、やっぱりちょっと悔しくないですか?」

 その時、奥でお湯を沸かしていたらしい稜人先輩が戻って来た。

 しっかりと三人分の湯呑みを用意しているところが偉い。
 て、言うか、阿左美部長がするべきだと思うんだけど。

「まぁ、そんなに気にすることないんじゃないか?」
「男にはわかりませんよ」

 今日の稜人先輩は薄手のジャケット姿だ。
 対照的に、阿左美部長は毛玉と錯覚しそうな飾りの沢山ついたセーター。

「そんなもんかな」
「そんなもんです」

 どうやら、頼子ちゃんはまだ来ていないらしい。
 義久君は私達の後からの時間帯だから、まだ学校にも来ていないだろう。

「抱いたら折れそうな腰ってのはやばいだろう」
「それが意見ですか?」
「いや。個人的趣味とも言うかな」

 まぁ、好きにして下さい。
 どうせ私は、凹凸の少ない体してますよ。

「拗ねちゃったわね」
「体重も増えてたのかな」

 ……的確に見抜かなくていいです。

 えぇ、増えましたよ。増えてましたよ、体重も。
 上は御覧の通り伸びてませんよ。

「図星みたい」
「そっとしておこう」

 心を読まなくていいですよ。
 もぅ、黙ってて下さい。

 

 

「こんにちは」

 身体測定が終わったらしい。
 頼子ちゃんが部室に入って来た。

 手に……レンガを持って。

「おかえり〜」
「お茶でいいか?」

 どうやら、レンガを気にする必要はないらしい。

「あ、自分でやります。このレンガ、どうします?」
「ん〜、とりあえず殺菌しようか」
「じゃ、焚火でもしますか?」

 話が全く見えてこない。
 レンガと殺菌と、どう結びつくんだろう。

「あの、何の話をしてるんですか?」

 私の質問に、阿左美部長がレンガから目を離さずに答えてくれた。

「石焼きをしてみたいのよね」
「レンガじゃしませんよ。普通は」

 石焼きって言うのは、もっと大きな石を熱して、それを使うもの。
 決して、レンガでするもんじゃない。

「レンガなら手頃な大きさかと思って」
「いや、レンガじゃ熱の容量が足りませんよ」
「やっぱり? でも、挑戦したいのよ」

 どうやら、阿左美部長のあくなき料理探究心のせいらしい。
 この人の料理は、思いつきの所も多分にあるんだろう。

「何を焼くんですか?」
「おじさんからもらったお肉。ちょっと霜降りだから、上手く焼きたいの」
「レンジじゃダメなんですか? なんなら、網持ってきてバーベキュー」

 バーベキューはいいな。
 楽しいし、美味しいし。

 でも、阿左美部長は不満らしい。

「ステーキっぽく食べたいの」
「普通に焼いたら、油が気になるんだってさ」
「レンガでも同じですよ」
「穴の沢山開いてる石ってないかしらね」
「確かにレンガって傷が多かったりしますけど、穴なんてありませんよ」
「あの焼ける音をさせながら、油を極力切って食べたいのよ」

 どうやら、鉄板の上で焼くのと同じ音をさせながら、油は切る。
 こう言うことを狙っているらしい。

「難しいですね」
「だから、いろんな物で試してみようと思って」

 ……今、気付いた。
 私の体重が増えてる原因。

「……私、ここにいるから太るんだ」
「あれだけ食べて、今更気付いたのか」

 大きなお世話です、稜人先輩。

 

<了>