新入部員、歓迎します


 

「……先輩、聞いてるんですか?」
「うん、聞いてるよ、霞ちゃん」
「だったら、どうしてそんなにのんびりしていられるんですかッ」
「まぁ、いいんじゃないの?」
「いいわけないでしょうがッ」

 ……まったく、ウチの先輩ときたら。
 新入部員の勧誘もしないで、部屋の中にわざわざあつらえた掘りコタツに入る?
 ぬくぬくと鍋の準備を始める?

 本当に、どういう神経をしているんだ?

「先輩、新入部員の勧誘はどうするんですか?」

 我が文芸部の部員は3名。
 私、3回生の部長、2回生の副部長。

 運動系でないから成り立っているようなものの、さすがに寂しい。

「まぁ、今年も一人入ったことだしね。十分じゃない?」
「そうだよな。三人いれば、季刊のページ数も何とかなるだろうし」

 ……やる気あんのか?
 一遍、その能天気頭に鉛の弾丸をブチ込んでやろうか?

 そんなことを思いながら、私は能天気な先輩に背を向けて、部室の入り口に向けて置いてある、
新入部員受付の席に座り直した。
 こんなに新入部員の私が必死になって頑張っているのに、背後のバカップル二人組は、呑気に
鍋をつつき始めた。

「この馬肉、美味しいな」
「でしょう? おじさんに送ってもらったんだよ」
「やっぱり牧場の肉は違うよな。あ、マイタケもいれよっか?」
「入れて、入れて。……ね〜、霞ちゃんは食べないの?」
「……結構です」

 うぅ……いい匂いだぁ。

 肉も野菜も茸も、全部先輩の田舎から送られてきたもので、鮮度抜群。
 おまけに料理をする先輩の腕もいいもんだから、普段の文芸部は、先輩の料理を食べることに
なっているらしい。

「おいしいのに」
「やっぱり、ユニフォーム買おうよ、佐竹さん」

 佐竹ってのは私の苗字。
 稜人先輩は私のことを”佐竹さん”と呼ぶ。

「結構ですッ」

 ウチのユニフォームは……ドテラだ。

 阿左美部長の提案で、部長が新入部員の時に決まったらしい。
 普段はコタツの中でドテラ着て座ってるのが似合う先輩なんだけど、彼女を甘く見てはいけない。
 現状の文芸部を創り上げたのは部長なのだ。

 で、稜人先輩は部長の幼馴染。つまり、二人の幼少の環境がココにある。

 

 

 私が憤慨しながら背後の鍋の音を無視していると、ガラガラと扉が開いた。

「あの、文芸部ですよね?」

 おおッ、いかにもな文学青年!

「はい、文芸部です」
「あの、入部しに来たんですが」
「はい。それじゃ、この用紙に学籍番号と名前、連絡先を記入して下さい」

 文学青年が用紙に記入していると、再び部室の扉が開かれた。

「あの、入部希望なんですが」

 おおッ、これまた文学少女っぽい女子生徒!

「はいっ、少々お待ち下さい!」

 そう言って背後を振り返ると、さすがに鍋は中断されていた。
 いつの間にか私の隣に並び、女子生徒の対応を始めていた。

「はい、入部希望の方ですね? こちらに必須事項を書き込んで下さいね」
「阿左美先輩、お久しぶりですッ」
「あら、頼子ちゃん? 久しぶりね〜、元気してた?」

 つまり、稜人先輩の後輩でもあるのだろう。案の定、ドテラ姿の二人にも驚きを示さなかった。

「あら、いいドテラですね」

 女子生徒が、二人のドテラを見てそう言った。

 ……どんな感覚してんだ、コイツラは。

「……あの、本当に文芸部ですよね? 活動してますよね?」

 不安になったらしい男子生徒が聞いてきた。

「タメ口でいいよ、タメだから」
「……どうなってんの?」
「さぁね。やめないでね」
「やめる気はないけど……楽しそうだし」

 青年の書いた名前をチラッと覗く。

『義久』

 ま、古めかしい名前だけど、雰囲気的にはピッタリだ。
 少し背が高くて痩せている文学青年。

「飽きないことだけは保証するわ」

 私の言葉に肩を竦めて笑ってくれた義久君に微笑を返す。

「さ、先輩も頼子も義久君も、春の散歩会の予定を話し合いますよ!」

 

 

 ……こうして、私達文芸部はスタートをきった。

 

<了>