合格祈願、歓迎します


 

「ねぇ、そっち終わった?」
「まだです。すいません」

「おい、そこの台拭き取ってくれ」
「ごめん。今、手が離せない」
「あ、これ投げますよ」

 と、言うわけで、我が文芸部は大掃除の真っ最中。
 日頃からたむろしている部室には、これでもかと言うくらいゴミがある。
 これでも、一応は稜人先輩が綺麗にしてるほうなんだけどね。

 それでもやっぱりゴミは出てくるわけで。

「うわっ、何ですか、コレッ」
「あ、カビ生えてるわね」

 冷静に言われなくても、見ればわかりますよ。
 コーヒーカスに菌糸がねっとりと付いていて、よく見れば綿埃のように周囲に糸が伸びている。
 まるで魔法の国のコケみたいに、それは真っ白く輝いている。

「部長、早くゴミ袋下さい」
「はいはい」

 コーヒーカスを摘んでいたゴム手袋ごと、ゴミ袋の中へ投げ捨てる。
 正直に言って、これ以上の発掘作業はしたくない。

「もう、お茶入れますよ」

 あらかた掃除も終わってることだし、逃げたっていいだろう。
 私にだって、逃げる権利はあるんだ。

「あ、お茶の葉、切らしてるんだった」

 稜人先輩がそう言って、掃除の手を休めた。

「どうします? 紅茶ならあるみたいですけど」

 棚には、まだ新しい紅茶の缶が置いてある。
 これを使えばいいんだけど、阿左美部長がうるさいんだよね。
 コタツにはミカンにほうじ茶と信じて疑わない人だからなぁ。

「頼子ちゃん、バイクで買って来てくれる?」
「はーい。これで最後ですから、拭いたら行きます」

 窓を拭いていた頼子ちゃんが、そう言ってペースを速める。
 どうやら、阿左美部長も掃除機をかけて終わりのようだ。

「稜人、ミカンの箱は?」
「あぁ、タンスの上だ。もう取るか?」
「お願い。すぐに掃除機かけるから」

 稜人先輩が背伸びしてタンスの上のミカン箱を下ろす。
 そのそばを、阿左美部長が手早く掃除機をかけていく。

「義久君はどう? 終わりそう?」

 そう言って、とりあえず、ポットにお湯だけを沸かす。

「まぁ、大体」

 頼子ちゃんが出て行った音だろうか。
 バイク特有の排気音がした。

「それじゃ、そろそろ大掃除終わり」

 阿左美部長が手を叩いて、みんなで掃除道具を片付ける。
 雑巾は別として、掃除機やクレンザー類は稜人先輩の家のものだ。
 部室の近くに横付けされた先輩の車に道具類を押し込んで、綺麗になった部室の中に戻る。

「テレビでも見ようか」
「今日は何かあったか?」
「今日は忙しくて新聞呼んでないけど、とりあえずつけよう」
「おいおい」

 早速コタツに入ってテレビのリモコンをいじる阿左美部長の左側に、稜人先輩が入っていく。
 もちろん、二人とも半纏姿に早変わりしている。
 私も二人に続いてコタツに入ろうとした時、義久君がポンポンと私の肩を叩いてきた。

「何?」

 私が振り返って尋ねると、義久君は気まずそうに私の足元を指していた。

「……靴下、大分汚れてるけど」
「え……あ、本当だ」

 言われて見れば、真っ黒。
 きっと、靴下で色々と動きまわったからだ。
 雑巾がけしてるようなもんだし。

「あらら……オニューだったのに」
「自転車貸そうか? 近くのコンビニまで」
「どうしよ……」

 さすがに、一日中この靴下でいるのはなぁ。
 一応じゃなくて、私も年頃の女性なわけでもあるし。

「そうするわ。ゴメン、借りるね」
「鍵は挿しっぱなしだから」
「わかった」

 はぁ……ついてない。
 コンビニだとストッキングだよねぇ。
 ジーパンにストッキングは似合わないんだけど。

「一年の最後にケチがついたわ」
「まぁ、来年は良い年になるよ」
「だといいけど」

 本当、よろしくお願いします。
 聞いてますか、神様。

 

<了>