ど真ん中、歓迎します


 

「雨ですねぇ」
「雨だねぇ」

 部室の中にいても、外の様子はよくわかる。
 雨が降っているのか、晴れているのか。
 槍が降っているのか、砂嵐が起きているのか。
 今日は雨。誰が何と言おうと雨。

「何か、やる気おきませんね」
「そうだねぇ」

 頼子ちゃんと一緒に、コタツにつっぷしてみる。
 テレビをつける気力もないや。テレビを見るよりも、のんびりしたい。

「人恋しいねぇ」

 何気なく、そう呟いてみた。
 人恋しいのは事実なんだけど、言うほどでもない。
 一緒にゴロゴロしてたいだけ。

「霞さんはさみしがり……と」

 何か、ペンがカリカリ音を立ててたような…。
 どうでもいいんだけどね。

「台風が接近してるんだってねぇ」
「関東地方に最接近だそうですよ」
「怖いねぇ」
「怖いですね」

 怠惰な会話だなぁ。
 これ以上ないくらい、意味のないおしゃべり。
 まだ喫茶店で芸能情報でも交換しあってる方が有意義かも。

「……やってらんないな。長靴履いて来れば良かったよ」
「でも、今日は就職の面接でしょう? 仕方ないわよ」

 あー、来ちゃった。

「こんにちは、先輩」
「こんにちは、頼子ちゃん」

 ぐてぇとなってる時に、この二人の登場はきつい。
 また、何かしら事件が起こりそうだ。

「お湯、沸いてる?」
「ポットに入ってますよぉ」
「それじゃ、お茶をいれるわ。霞ちゃん、頼子ちゃん、何がいい?」

 面倒だし、お茶でいいか。

「んじゃ、お茶で」
「わたしも」

 阿左美部長の淹れてくれた熱いお茶を飲んで、ホッと一息。
 夏の季刊の締め切りまではあと一月あるし、今は暇だしね。
 本当は今頑張っておけばいいんだけど、雨の日は気合がねぇ…。
 プロト組むのに適する天候って言うか、そんな感じ。

「稜人先輩、今日就職の面接なんですか?」
「アルバイトを変えようかと思って。今日が面接」
「コンビニですか?」

 あ、そうだ。
 帰り道に、サークルチェンジに寄らなきゃ。
 コピーしておかないとダメだったっけ。

「いや、家庭教師。わりが良いからね、家庭教師は」
「あ、やっぱりそうですよね。私もやってますよ。二千円くらいですけど」

 時給二千円かぁ…。
 ボロい商売だね、そりゃ。

「家庭教師と言えば、母ネタ、妹キャラネタですねぇ」

 ど真ん中だね、また。
 そんな頼子ちゃんが大好きだよ。

「あ、そう言うのはなし。男だから、生徒は」
「それじゃ、母ネタで」
「無茶苦茶だな」

 思わず苦笑している稜人先輩と阿左美先輩。
 平和だねぇ…。

「霞ちゃんはアルバイトしてないの?」
「してません。親からの小遣いで充分ですから」
「お金だけじゃないよ、バイトって」
「そんなもんですか?」

 まぁ、確かにコンパも久しく行ってない。
 寂しい限りではあるけど、お酒もそんなに好きじゃないし。
 女の子と買い物に行ければいいし。

「ま、本人が必要ないならいいけどね。それじゃ、行って来るよ」
「はい、いってらっしゃい」

 折角服を拭いたのに、また外に出て行ったよ。
 この雨の中、ご苦労様です。

「あ、そうそう。頼子ちゃんに霞ちゃん?」
「何ですか?」
「コレ、あげる」

 そう言って私達に手渡されたのは、どこぞの詩歌本。
 丁寧に付箋がついているところを見ると、これに応募しろってことか。

「梅雨時期はすることないと思うから、これ、部の活動費扱いにしたから」
「……はい」

 活動費扱い……結果が求められるもの。
 結果とはすなわち、掲載。
 とりあえず外でも見ますか。

『はかない水の冠が、誰にも気付かれずに消えている。
 土の上で、屋根の上で、傘の上で。
 誰も被らない無数の冠は、すぐに壊れてしまう。
 私の恋心と同じように。                  』

 うーん……詩じゃないね、こりゃ。

「寂しい女の子だね、これじゃ」

 

<了>