40,000hit キリ番リクエスト for Leo様

信用しなさい


「よし。今日はこの辺りで野宿にしよう」

「そうですわね。ここなら水場からも少し離れていることだし、問題ないんじゃないかしら」

「そうですね」

 クロードの言葉に、女性陣二人が賛同の意を示す。

 まだパーティーに加わったばかりのアシュトンは、黙って場の流れを見守っていた。

「俺とレナでテントを張ろう。セリーヌさんは焚き木集めを。アシュトンは狩りを頼めるかな」

「かまいませんわ」

「いいよ」

 それぞれに役割を割り振って、クロードが周囲を見まわす。

 街道から少し離れた場所に開けた場所を見つけると、クロードがレナを促す。

「レナ、あの辺りに張ろう」

「わかったわ」

 クロードとレナの二人が頭を下げて、先に街道から外れていく。

 二人が足を止めた場所を確認したアシュトンは、狩りをするために彼らとは反対側に街道を外れていく。

 しばらく進んだところで、アシュトンは同じ方向へやってきているセリーヌを振り返った。

「焚き木なら、その奥の枯れ木を切り倒そうか」

「それもいいですわね」

「……じゃあ、切り倒すよ」

 セリーヌの視線を背中に感じつつ、アシュトンは手頃な枯れ木の前に立つ。

 双剣を構えて呼吸を整えたところで、待っていたかのようにセリーヌが声をかける。

「ねぇ、魔物憑き」

「……何だよ、刺青女」

「少し、お話しませんこと」

「魔物憑きと呼ばれて、僕が話すとでも」

「あら、貴方は魔物に憑かれているのではなくて」

「そうだけど、魔物憑きなんて呼ばれたくないね」

「そう。不思議よね、魔物に憑かれながらも意識があるなんて」

「何が言いたいんだよ」

「古来より、魔物に憑かれた者に意識が残ることはないわ」

「文献を鵜呑みにするの」

「ただ、魔物が本当に貴方に憑いているのなら、その双肩のものは存在する必要がないわね」

「そうかな」

「えぇ。だって、魔物が貴方に憑いたのなら、魔物の拠り代は貴方の肉体であるはずだもの」

 セリーヌの指摘に、アシュトンは溜めていた力を解き放つ。

 枯れ木が音を立てて崩れ去っても、アシュトンはその刃を納めようとはしなかった。

「何が言いたいんだよ」

「貴方の肩にその魔龍がいる理由を知りたいわ」

「さぁね。僕は憑かれただけだよ」

「そんな冗談、私には通じなくてよ」

「へぇ……何か根拠でもあるのかい」

「私が何も知らないと思っているのかしら」

 そう言うと、セリーヌがロッドを構える。

「ねぇ、砂漠のアンカース」

 セリーヌの言葉に、アシュトンは目を細めた。

 日頃は自信の無さそうな表情を浮かべているアシュトンも、目を細めるとその印象は変わる。

「……マーズのジュレスだったかな」

「私の実家のことも知っているようね」

「紋章術の使い手で、マーズを知らない人間はいないよね」

「私も同じよ。失われたはずの紋章剣。すぐにわかるわ」

 互いに一触即発の空気をまとわせながら、二人は距離をとったまま言葉を交わす。

「貴方たちの目的は何かしら」

「さぁ。僕の旅に目的なんてないよ」

「嘘。貴方は私たちが来るのを待った。どうしてかしら」

「偶然だろ」

「偶然、私たちが来るのを待って、魔物は貴方に憑くことを選択したのかしら」

「それは僕が知りたいね」

 アシュトンの返事に業を煮やしたセリーヌが、これで最後とばかりに殺気を放つ。

「クロードを狙う理由は何かしら」

「……クロードを狙うだって」

 初めての手応えに、セリーヌがロッドに魔力を注ぐ。

 ロッドの先端が光りだしたのを見て、アシュトンは体勢を半身へとずらした。

「貴方の背中の魔物は、クロードに何をさせたいのかしら」

「知らないよ」

「何も知らずに協力しているの」

 挑発してくるセリーヌに、アシュトンは小さくため息をついた。

 アシュトンにしても、セリーヌの言動がアシュトンの感情を狙ったものだとわかっている。

 アシュトンの真意を見抜くためのセリーヌの言動に乗るほど、アシュトンも素直な生き方をしていない。

「教えないと言ったら」

「さぁ……どうしましょうか」

 セリーヌの言葉に、アシュトンが素早く剣を引き絞る。

 ロッドを構えるセリーヌの肩にわずかな力がこめられたのを見て、アシュトンは剣を放った。

 ロッドを動かさずに息を止めたセリーヌの横を貫き、アシュトンの剣が獲物を捕らえた。

「……熊だね」

「大物ですわね」

「野営なのにご馳走が食べれそうだね」

「そうですわね」

 セリーヌの背後で倒れた熊に突き刺さった剣を回収すべく、アシュトンはスタスタとセリーヌの隣を通り過ぎる。

「次は、こうはいきませんわよ」

「保護者のつもりなら、黙ってた方がいいんじゃないの」

「お節介は性分ですの」

「そう」

 セリーヌの横を通り過ぎるアシュトンと双頭竜の目が、セリーヌの横顔をなめていく。

「貴方には信用されていないようですわね」

「僕は一人で生きてきたんだ。信用しろと言われてもね」

「面倒な子供ですこと」

「頼りにしてますよ、お姉さん」

 そう言うと、アシュトンは器用に熊の解体を始める。

 セリーヌがついたため息を、竜を背負う背中で聞きながら。

 

 

<了>