標的
矢の先についている羽が、風を切る音を立てている。
寸分違わずに標的を射抜く矢を、ウィルがのんびりと眺めていた。
「……見るだけか」
矢を番えたままの体勢で、ラスが口を開く。
すでに一時間は矢を放ち続けているにもかかわらず、彼の腕は一時も揺らいでいない。
「貴方の邪魔はしませんよ」
羽が風を切り、木の幹に矢尻が突き刺さる。
ラスが弓を下ろしたのを見て、ウィルは小さく手を叩いた。
「凄いですね」
「……強くなければ、生き残れない」
「それは、その通りです」
そう言って立ち上がると、ウィルは自分の弓を構えた。
弦の張り具合を確かめるように一、二度、弦をはじくと、ラスの隣へと立ち位置を移した。
「誰かを守るためにもね」
ウィルの言葉に、ラスの表情が険しくなる。
ウィルの言葉を真意を測りかねたラスが、無言で弓を構えた。
二人で同じ標的に矢を番え、静かに矢が放たれる一瞬を待つ。
穏やかな風が二人を包み、矢に付けられた羽が、ささやくように彼らの指を誘った。
「理由は人それぞれ」
「……お前は、何のために戦う」
「初めは世話になった村のため。次は一緒に戦った仲間のため」
「最後までいる気か」
まるで我慢比べをしているかのように、二人は風の誘いを断り続けていた。
「今は、騎士見習いですから」
「それだけか」
風がやみ、二人の指先を羽が薙いだ。
「守りましょう、一緒に」
ラスの放った矢は、再び標的を射抜いていた。
しかし、ウィルの放った矢が射たもの。それは、地面にのたうつ蛇だった。
「……何故だ」
「さっきから気になっていて、仕方がなくて」
そう言って、ウィルは射殺した蛇へと近寄っていく。
「何が言いたい」
ラスの声にすぐに答えることなく、ウィルは蛇から矢を抜き取った。
硬い蛇の皮を貫いていた矢は、ウィルの強靭な矢の威力を思わせる。
無言で視線を送るラスの迫力に気圧されたように、ウィルは肩をすくめた。
「好きなら好きで、いいと思いますよ」
「……余計なお世話だ」
「そういうと思いました」
訓練に放った矢をそのままにして、ラスが背中を向けた。
いつもより足早に陣へ戻っていくラスの後ろをゆっくりと追いながら、ウィルは小さく笑っていた。
「何か気に障るようなことを言ったんですかね」
そう呟いたウィルの視線の先には、リンに話かけられて戸惑うラスの姿があった。
<了>
後書き
キリ番リクエスト第十三弾は、FE烈火の剣より、ウィル&ラスを書かせていただきました。
宮内碧依様、ありがとうございました。
ウチのサイトの主力でもあります、FEシリーズのGBAソフトの一つ、FE烈火の剣。
シリーズ最高峰との呼び声高い聖戦の系譜に比べると、かなり見劣りするゲームです。
何より、三回もクリアしないといけないのは、時間のないユーザーにとっては苦難の道のりです。
キャラデザインも、正直、あまり好みではありません。(何でキャラデザの人、変わったんでしょうね)
このFEシリーズ、段々とシナリオに手を抜いているのではないかと言うユーザーもいます。
人物描写を細かくやっていって欲しいというのが、偽らざる願いです。
今回のリクエストでは、「ウィル」を選択させていただきました。
烈火の剣は、キャラデザとか成長率も含めて、弓兵が評価高いです。
まぁ、FEシリーズの弓兵って、シナリオや描写も含めて、大概優遇されているものですが。
今回の作品に当たっては、ほとんど攻略本をメインに人物設定をしました。
あの支援成立システムが、峻祐には使いこなせないんですよ。
隣接していると会話フラグが立つようなのですが、回数が限定されているのです。
しかも人物描写が生半可なときから、すでに回数制限が始まっているので、王道が見えてこない。
今、なんと言うか……頭の中、ラス×リンなんです(涙)
遊牧民と遺児ですよ。
これが王道と言わずに、何を王道と言うのかッ。
でも、作品書き終えたあとでなんですが、公式設定のウィル=天然が信じられません。
FEシリーズには、もう一度原点に戻ってもらい、人物描写を各キャラでして欲しいですね。
とりあえず、天馬騎士だけの優遇措置は止めてください(涙)
それでは、初の烈火の剣リクエストをしてくださった宮内碧依様に敬意を示し、終わらせていただきます。