Web拍手ログ2


過去にWeb拍手で公開していた小ネタたちです.
本編ネタばれもあるので,ご注意ください.

***Web拍手ありがとう編***

「魔術学院マイナーデ」より

「拍手,ありがとうございました!」
薄茶色の髪の少女は,愛想よくお礼を言った.
その隣で,金の髪の少年がぶすっとしている.
少女が何か言いたげな視線を送ると,
「……ありがとうございました.」
少年は不機嫌な顔のままで,見事なまでの棒読みでしゃべった.

「……ったく,なんでこんなことをしなくちゃいけないんだよ?」
金の髪の少年は,ぼりぼりと頭を掻いてぼやく.
せっかく美少年という設定にしたのに……,という作者の嘆きは少年には伝わらない.
「駄目だよ,王子.もっと笑顔で言わなくちゃ.」
「だから,なんで俺たちがこんなことをしているんだ?」
理不尽な仕事を押し付けられた少年の機嫌は悪い.
「それは殿下が主人公だから,ですよ.」
するといきなり背後から,薄水色の髪の青年が現れた.
「な,なんだよ!?」
主君の少年はびっくりする.
「殿下,主人公の心構えが無いから,こんな些細なことで驚くのです.」
「……はぁ?」
そのまま青年は,正しい主人公のあり方についてとくとくと語りだす.

一つ,頭脳明晰であること.
一つ,品行方正であること.
一つ,文武両道であること.
一つ,容姿端麗であること.
一つ,明朗快活であること.
一つ,俺様腹黒であること.
一つ,最強最恐であること.

さぁ,皆様.
どのような主人公がお好みですか?

「君に降る」より

「拍手,ありがとうございます.」
少年はにっこりと微笑んで,礼を述べた.
「……あ,ありがとうございます.」
慣れない人前で,少女は緊張して言った.

「皆さんも宜しければ一度,当図書館においでください.」
そして少年は,優しく少女の背中を叩いてやる.
「……今月のお勧めの新刊は,『創世神話―謳う大地―』です.」
赤い表紙の本を前に差し出して,少女はおずおずと宣伝をした.
「よ,読みどころは,……その,」
カンニングペーパーをちゃんと用意しているのに,少女は緊張のあまりつっかえる.
そんな少女の様子を,少年は暖かく見守っている.

二人の時間は,ゆっくりと穏やかに流れてゆくのだから…….

「手のひらから魔法」より

「拍手,ありがとうございました〜〜〜!」
最初から無駄に無意味に誰も歓迎しないのにハイテンションで,藤原壱架は言った.
「……ありがとうございました.」
微妙に引きつった笑顔で,一村圭は続いた.

「先生! こんなところに二人で出演できるなんて,公認カップルみたいですね!」
何を張り切っているのか,壱架はマラカスまで持っている.
「……ある意味,学校でもすでにそんな存在だな.」
諦めた笑みを浮かべて,圭はタンバリンを鳴らした.

……社会人は本音と建前使い分け.
分かってはいても,時々無性にむなしくなるのであった…….

「遥か彼方,遠い異国の物語」より

「やだ,恥ずかしいわ.……私にWeb拍手のお礼なんて.」
ふわふわの栗色の髪の,文句無しの美少女は恥らって顔を隠した.
「……殿下,気色悪いからおやめ下さい.」
従者オーヴィスは,呆れきったため息を吐く.
いったいいつまでこの茶番は続くのだろうか…….

「安心しろ,オーヴィス.あと一話でこのお礼小話は終わりだ.」
……付き合ってくださる方,あと一回だけ拍手を送ってください(by作者).
「何の話ですか? 殿下.」
常識人を自負するオーヴィスには,少年が何について言っているのか理解できない.
「ちなみに俺は,主人公としての条件をすべて備えている!」
「だから,何の話ですか? 殿下!?」
自信満々の少年に,オーヴィスはついて行けない.
「頭脳明晰で品行方正で文武両道で容姿端麗だ!」
オーヴィスは,開いた口がふさがらない.

自信過剰,愛情過多,優良牛乳,将来有望……?
オーヴィスは痛む頭を押さえ,とりあえず王子の危険な言動を放置した…….

再び「魔術学院マイナーデ」より

「ライム王子の方が,ずっとずっとずぅぅっとかっこいいもん!」
少女の剣幕に,金の髪の少年は押された.
「……そ,そうか?」
しかしかっこいいと褒められて喜ばない男など居ない.
比較対象があんな14歳の子供であることが,多少情け無いが…….
「成績だっていいし,すっごく品があるし,」
少女は一生懸命に少年を持ち上げる.
少年は思わず口元が緩んでしまうのを必死で隠した.
「それに,それに……,」
少女は握り拳を,ふるふると振るわせる.
「王子は14歳のとき,もっともっともっと可愛かったんだから!」
がくぅぅぅと少年は膝から崩れ落ちた.

「……はい?」
コントのようにずっこけた少年には気づかずに,少女はいかに少年が可愛いかを力説する.
「髪の毛なんてさらさらだし,お目目もぱっちりだし,もじもじしていて可愛かったもん!」
「な,何の話だよ!?」
少年は真っ赤になって,怒鳴り返す.
そんな少年の隣では,従者の青年が腹を抱えて笑っている.

一つ,頭脳明晰であること.
一つ,品行方正であること.
一つ,文武両道であること.
一つ,容姿端麗であること.
一つ,明朗快活であること.
一つ,俺様腹黒であること.
一つ,最強最恐であること.

さぁ,皆様.
お好みの主人公は,いったい誰ですか?


***「魔術学院マイナーデ」お遊び番外編***

『月にも帰れません』編

おじいさんライムは竹を切ります.
すると竹の中から,かぐや姫サリナが出てきました.
「馬鹿! 危ないだろ! なんでそんなところに居るんだ!?」
昔話のお約束に対して,おじいさんライムは怒ります.
「え? ……えぇっとぉ,」
かぐや姫サリナは,何とも返事ができません.

まぁ,そんなことは置いときまして,おじいさんライムはかぐや姫サリナを家へと連れ帰りました.
釣った(?)獲物は俺のもの,というノリですね.
家ではおばあさんスーズが二人を出迎えました.
「……ナンパですか? 殿下.」
おばあさんスーズは,やれやれと首を振ります.
「そんな風にお育てした覚えは無いのですが…….」
「違う! 何を言っているんだ!?」
おじいさんライムは,真っ赤になって怒鳴り返します.

そんなこんなで,おじいさんとおばあさんはかぐや姫を育てました.
さて,年頃になったかぐや姫に求婚者の男たちが押し寄せてきます.
「馬鹿! 嫁になんて出すわけがないだろう!」
再びおじいさんライムは,真っ赤になって怒ります.
どうでもいいですが,おじいさんライムは怒ってばかりです.
……血圧がとっても高そうですね.
「でも,王子,」
かぐや姫サリナは,おじいさんライムをなだめようと無駄な努力をします.
「私,ちゃんと断るよ.」
「なら,逢う必要は無いだろ!?」
これでは,物語がさっぱり進みません.

求婚者たちに無理難題を出すはずのかぐや姫.
帝にも求婚されるはずのかぐや姫.

こんな調子では,月にも帰れないのでした…….

『世界観を越える少女』編

かわいいかわいい3匹の子豚.
おうちを建てましょう,藁の家,木の家,レンガの家.

「わ,私たちが豚なの!?」
レンガの家で,薄茶色の髪の少女は愕然とした.
「……豚? なんだ,それは?」
その隣で,金の髪の少年が首を傾げる.
そう,中世西洋風ファンタジーに豚は存在しない.
「やだよ,豚なんて.かわいい子豚なんて言っても,豚は豚じゃない!」
豚さん,ごめんなさい…….
「サリナ,その豚というのはいったい……?」
薄水色の髪の青年も困惑する.
何度も言うようだが,豚は存在しない.

「も,もしかして,私が太っているって言いたいの!?」
意味が分からない男性二人の前で,少女は一人でショックを受ける.
「ど,どうせ二の腕が太いもん,……ぷにぷにしているって言われるし,」
少女は家の隅に座り込んで,のの字を床に書いた.
ちなみに”の”の字も,この世界には存在しないのだが…….

「……殿下,」
長身の青年は,主君の少年の肩をぽんと叩いた.
視線で,「サリナは太っていない.」と慰めなさいと訴える.
「分かった,スーズ.」
弟のような年の差の少年は,聡明な瞳で頷く.
「多少太っていても,俺の気持ちは変わらないと言えばいいんだな.」
「え゛……?」
笑みを引きつらせた青年には気づかずに,少年は少女のもとへと赴く.
少年の背中は,間違った使命感にあふれていた.

きっかり3分後,……ちなみに3分などという時間の単位も存在しないのだが,「太っている.」と断言された少女の怒りのビンタが,少年の頬に炸裂するのであった…….

『いつものことだけど主従逆転』編

大きいつづらと小さいつづら.
目の前に並べられたそれらを見て,少女はう〜んとうなった.

舌切りすずめスーズは,にこやかな笑みを浮かべて少女の決断を待っている.
「どちらでもいいんだよ,サリナ.」
しかし,悩んでしまうのが人の常である.
少女はひとしきり悩んだ後で,
「じゃ,大きい方を頂きます.」
単純に大きい方を選んだ.
すると,
「馬鹿! こうゆう場合は小さい方を選ぶんだ!」
天から少年の声が降ってくる.

「ライム王子!?」
少女は驚いて,舞台の上を見上げる.
「違う! 俺は天の声だ!」
速攻で否定されて,少女は「はぁ.」と間抜けな返事を返した.
「とにかく,小さい方のつづらを選ぶんだ!」
少年は頭ごなしに,少女に命令する.
「大きい方は遠慮して,控えめに小さい方を選べば,小さい方に金銀財宝が入っているはずだ!」
姿を現さない少年は,物語の落ちをばらした.
昔話のお決まりで,欲の無い善人が報われるのだ.

「えっと〜〜,……小さい方をください.」
いまいち少年の言っていることが理解できないが,少女は少年の指示に従う.
金の髪の少年が,少女に対して間違ったことを言うはずは無いのだから.
すると青年がにっこりと微笑んで,
「いいのですか,殿下?」
天に向かって呼びかける.
「実は裏をかいて,小さい方のつづらに毒蛇や毒蜘蛛が入っているのかもしれませんよ.」
「なっ……!?」
暗い舞台上で,少年は驚愕する.
「……なら,大きい方だ!」
少年の苦渋に満ちた決断を,青年は肩をすくめて受け流した.
「そうですか? 本当は裏など無いのかもしれませんよ?」

「く,くそっ,……どっちなんだ!?」
生真面目な少年は,本気で思い悩む.
青年がおかしそうに,くすくすと笑っていることには気づかない.
口を挟めない少女をほっといて,主従漫才は続くのであった…….

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