男はつらいよ,ではなく『長編はつらいよ』


「あー,女って何を考えているのか,分かんねぇー.」
がしがしと頭を掻いて,顔をしかめているのは元勇者の健.
「……そうですね.」
少し困った笑顔で,無難な答えを返しているのは国王のマリ.
「俺は,あいつらは別次元の生き物だと思っているぞ.」
形のいい眉をひそめて,とんでもないことを言っているのは魔術師のライム.

世界も違えば価値観も異なる3人は,なぜか同じテーブルでお茶をしていた.
3人の共通点は一つ,すなわち17歳男性であることだけ.

「どうして仮にも好きな男の横でぐうぐうと眠れるんだか,理解できない.」
金の髪の少年は,偉そうに腕を組む.
テーブルの上に置かれたホットコーヒーからは,暖かな湯気が立っている.
「……つらいっすね,それは.」
こげ茶色に染めた髪の青年は,アイスティーの氷をストローでからんと鳴らした.
「……そうですね.」
洞窟の夜では熟睡,初夜はすっぽかした銀の髪の少年は,曖昧な笑みを保っている.
「いや,でも,うらやましいですよ,」
あることに気づいて,マリは身を乗り出した.
「それだけ信用されているということじゃないですか.」
初めて見た妻の寝顔に,少年は少なからず感動したことがある.

しかし,
「それが嫌なんだ!」
「それが困るんだ!」
どん,とテーブルを叩いて,王子と勇者は声を荒げる.
「俺は男だぞ! ちゃんと分かっているのか,あいつは!?」
「手ぇ出したくて出したくて堪んねぇのに,寝られちゃったら何もできないじゃないか〜〜〜〜!」
テーブルに突っ伏して嘆きだす男性二人に,唯一の既婚者である少年は何も言えずにオレンジジュースをすすった…….

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