カイエスブレームの翼

君のキモチ


俺の名前はヴィルトだ.
カイトで世界中を旅している,カイエスブレームの風使いだ.

ある日立ち寄った街の露天で,なかなかにおもしろい魔法の粉を手に入れた.
この粉をかけると,普段使っている『物』の気持ちが分かるというのだ.
「どんな『物』にでも使えるのかい?」
「あぁ,もちろんさ.ただ使い込んだ『物』ほど,よくしゃべってくれるね.」
露天商の親父の安請け合いを信じたわけじゃないが,俺は魔法の粉を試してみることにした.

試す対象は,もちろん俺の相棒の青いカイトだ.
晴れの日も雨の日も,森も砂漠も湖も,俺はコイツと一緒に旅をしてきた.
いったいどんなことを,しゃべってくれるのだろう.
夕暮れ,町外れの公園で,俺はカイトに魔法の粉をかけた.
さぁ,いったいどうなる!?
子供のようにわくわくして,俺がカイトを見つめていると,
「……おい,」
中年親父のようなだみ声が,どこからか聞こえてきた.
「……おい,ヴィルト,」
誰だ? 誰が俺を呼んでいる?
「俺だよ,この腐れボケ! どこ見てんだよ,うすらぼんやりめ!」
え……,
「俺がしゃべっているに決まってんだろ,このボケナス.さっさと理解しろよ,頭の回転遅いんだよ,いつもいつもトロトロしやがって,」
まじで……,
「やっと分かったのか,口をぽかんと開けるんじゃねぇよ,間抜け面.」

「う,嘘だろ……,」
ショックだ.
「現実はさっさと認めるんだな,このしょんべんガキめ.」
夢は,はかなく崩れ去った.
……つうか粉々だ.
「まぁ,いい.この際だから,言っておく.」
なんでこんなにも偉そうなんだ.
カイトは,もしも人間ならば腕を組んで胸を反らしていそうだ.
「右翼に一つ,左翼に二つ,鳥の糞がついている.さっさと洗えや,このへたれ下っ端め.」
「べ,別にいいじゃないか.飛行に支障があるわけじゃないし.」
俺が弱々しく反論すると,
「馬鹿野郎! 鳥の糞っていうのは酸性なんだぞ! 羽に穴が開いたらどうするんだ!」
「そんなぁ……,」
こんなカイトで,俺はいつも空を飛んでいたのか…….
「すぐに洗わないと,てめぇを空から突き落とすぞ.だいたいお前は重いんだよ,ダイエットしろよ,このデブ!」

……俺の名前はヴィルトだ.
どうやらカイトよりもずっと立場の弱い,カイエスブレームの風使いだったらしい.



特定のキャラクターを使った競作作品です.

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