カイエスブレームの翼

特別な旅人


青い空から,青い翼が降りてきた.
「ねぇ,旅人さんが町に降りてくるよ.」
わたしたちの小さな田舎町に,お客さまがやって来る.
わたしが指で指して教えると,お母さんは目をめいいっぱい大きく開いて叫んだ.
「ま,まぁぁぁぁ!? 大変! 大変よ!」
お母さんの大声に,お父さんもお兄ちゃんもびっくりして空を見上げる.
「ついに,ついに来たわ!」
隣の家のおばちゃんも,隣の隣の家のおじちゃんも,隣の隣の隣の家の犬も,……みんな家の中から飛び出してきた.
「おい,広場の方に降りるみたいだぞ!」
鍛冶屋のおじいさんも,花屋のお姉さんも.
「町長さんに知らせましょう! ついに例の旅人が来たんだわ!」
あっという間に,町中大騒ぎになっている.
「旅人が来るなんて三ヶ月ぶりだぜ!」
だって,わたしたちみんなが待っていた人が来たんだもの.

「私たちも広場へ行きましょう!」
お母さんがわたしの手を引いて,走り出す.
お父さんとお兄ちゃんも走る.
みんな広場へ向かって全速力で駆けている!
たどり着くと,町の狭い広場はすでに人がいっぱい.
「お名前は何とおっしゃるのですか?」
「歳は?」
「坊や,こんな辺境までよく来たね.」
もちろん,旅人さんは大勢に囲まれて質問攻め.

お兄ちゃんと一緒に人ごみを掻き分けて前に出ると,旅人さんはとっても困った顔をしている.
「ふふん,あいつは自分が『特別な旅人』だって分かってないな.」
お兄ちゃんはわたしに,腕組みをして偉そうに言った.
旅人さんは,畑の土のように黒い髪で,目が,……目が真っ青だ.
なんだか,胸がどきどきする.
だって青は,わたしには手の届かないお空の色だから.
「おぉい,通してくれ!」
分厚い本を持った町長さんがやってきて,人ごみの輪を途切れさせる.
「ようこそ,私たちの町へ!」
町長さんは,戸惑う旅人さんの手を無理やり取って握手する.
そして本を開いて,旅人さんが本当に『特別な旅人』さんかどうか確認した.

旅人さんは,とても不思議そうに首をかしげている.
町長さんは本をぱたんと閉じてから,叫んだ!
「皆の衆,今日は祭りだぁ!」
おぉぉぉぉと,みんな声を上げて大喜び.
楽器を打ち鳴らす人,踊る人,さっそくお酒のびんを開ける人.
旅人さんは,きれいなお姉さんから花束を渡されて,ひげのおじさんからお酒を渡される.
今日はこの町で,一番めでたい日.
とっても歴史の長い町の,ずっとずっと待ち望んでいた日.
大きなのぼりを町長さんたちが立てて,みんなは感動して涙を流す.
「田舎町で,このような偉業を成し遂げることができるとは思わなかった…….」
「執念深く,記録をとり続けた甲斐がありました.」
のぼりの文字を見た旅人さんが,飲んでいたものをぶっと吹き出して,初めて声を出した.
「……嘘だろ?」
旅人さんの口元が引きつっているような気がしたけど,お母さんが「今日はご馳走よ!」と呼ぶから,私とお兄ちゃんは人ごみから抜け出した.
今日は,特別な日.
お菓子をいっぱい食べても,夜更かししても怒られない.
旅人一万人突破記念日だ!



特定のキャラクターを使った競作作品です.

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