青い空から降るのなら,白い花がいいわ.
きっと素敵だと思うの.
あの人が,私を思い出してくれるくらいにね.
え? あの人が誰だって?
あぁ,うちの旦那さんのことよ.
妻の私よりもお金が,大好きな人なの.
ううん,お金というよりは子供ね.
子供が出来たと分かったときのあの人ったら,見物だったわ.
浮かれるわ,はしゃぐわ,村の池に落ちるわ.
もう,皆の笑いものね.
恥ずかしいったら,ありゃしない.
産まれてくるのは花のように愛らしい女の子か,大樹のようにたくましい男の子か.
どっちにせよ,あの人にはしっかりとしたお父さんになってもらわないと困るわ.
すると,あの人は言ったのよ.
産まれてくる我が子に,苦労はかけたくないって.
そして行っちゃったの,出稼ぎに.
遠い都会の街まで.
お金を稼ぐぞぉって,思い込んだら一直線.
止める間もなく,出て行っちゃったわ.
しかも今日に至るまで,まったく連絡無し!
忘れているんじゃないかしら,私のことを.
白い花が村を覆いつくして,今日は年に一度の花祭りの日.
村中花だらけで,わざわざ立ち寄る旅人だって居るのよ.
なのに,あの人は帰ってこない.
その代わりと言っちゃ何だけど,空から不思議な男の子が降りてきたわ.
名前は,……あ,聞くのを忘れちゃった.
でも印象的な男の子だったから,顔はよく憶えているわ.
ぼさぼさの黒髪で,目は真っ青な空の色.
きっと地上よりも,空の世界を見すぎてしまったのね.
けれどその男の子は私の腕の中を見て,ものすごく優しく笑ったの.
だから私は,その子にお願いをしたの.
遠い街に居るあの人に手紙を届けて,と.
あなたのカイトならば,出来るはずだから.
そう,青い空から降るのなら白い花がいいわ.
鈍感なあの人でも,きっと分かるでしょう.
花のように愛らしい女の子が産まれたってね!
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