タケル,君が悪いんだ…….
いなくなった君が悪いんだ.
抱きしめると,サンサシオンの腕の中でリルカは体を固くした.
今,必死に自分に言い聞かせているのだろう…….
タケルのことは忘れなくてはならない,そして私の想いに応えなくてはならないと.
今,ここで口付けをしたら,拒まれはしないが決して応えてはくれないだろう.
「サンサシオン様,」
二人きりのテントの中で,リルカの声が震える.
しかし呼びかけたはいいが,言葉が続かない.
普通の少女だ,どこにでもいるような.
しかし勇者ワーデルの血をひき,王女という身分を持っている.
彼女を愛しているけれど,彼女はタケルを愛しているのか.
彼女がタケルを愛しているから,彼女を愛しているのか.
あごをつまんで顔を上げさせると,泣きそうな顔でサンサシオンを見つめてくる.
不安に揺れる琥珀色の瞳.
たとえ嫌がられても泣かれても,それができるのが男というものなのかもしれない.
そっと唇を寄せると,リルカは覚悟を決めたようにぎゅっと目を瞑った.
軽く触れる,その唇に.
「や,やだ…….」
びくっと震えて,リルカが小さく声を漏らす.
王女だから,などという言葉では消せない本音.
しかし一度触れたら,もう止まらない.
リルカの後頭部を掴んで,次はしっかりと口付けた.
「いや……!」
嫌がるリルカを抱いて,何度も口付ける.
この唇はタケルだけのものだった…….
タケル,君が悪いんだ…….
なぜこの姫を置いて自分の世界へ帰ったのだ?
いつしか,泣きながら拒むリルカに無理やりにキスをしていた.
「……タケ,」
キスの合間に聞こえる違う男の名前.
それがいくらでもサンサシオンを残酷な気持ちにさせる.
いっそこのまま強引に抱いてしまおうか…….
しかしその思いに反して,サンサシオンはリルカの体を開放した.
すぐさま,リルカはサンサシオンの手の届かないところまで逃げる.
そのままテントからも逃げようとしたが,義務感なのか使命感なのか,留まってサンサシオンの言葉を待つ.
……どうすればタケルのことを忘れて,私のことを愛してくれるのですか?
サンサシオンはその問いを飲み込んだ.
「リルカ姫.」
そして苦笑して言う.
「乱暴なことをしてすみません.」
これを言うのは卑怯だ.
「しかしあなたが勇者ワーデルの血を尊いと思うのならば,」
分かっている.
「私が最良の相手だと思いませんか?」
けれど,この姫がタケル以外の男に抱かれるなんて考えたくもないことだ.
それなら私が,
あなたを愛している私が…….
恐怖しか映さない琥珀色の瞳,涙に濡れた頬.
「私はいくらでも待ちますから…….」
決して違う男のところには行かせない.
タケルが居なくなった今,あなたは私のものだ…….
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