夏休み白雪姫特論 ver.2


毒りんごを食べてしまった白雪姫リルカは死んでしまいました.
小人アリアが死んだ姫のひつぎの前で泣いています.
そんなとき,森の中を王子健が通りかかりました.

「タケル〜,あんたが王子様役なの?」
アリアは健の顔をきっとにらみつけた.
「あったりまえじゃん,こんなおいしいポジションを誰かに譲るわけないだろ?」
と言って,健は寝たふりをするリルカの体を抱く.

「リルカ……,」
すると口付けを予測して,リルカはがちがちに緊張する.
初めてのキスじゃあるまいし……,健はぷっと軽く吹き出した.
恋人に口付けようとすると,健はアリアに肩を捕まれて止められる.

「何よ,そのすけべそうな顔は!」
「え?」
アリアの台詞に健の顔が赤くなる.
「やっぱり駄目,タケルは王子様失格!」
リルカの体を健の手から取り戻し,アリアは強く言った.
「私の目の前で,姫様にキスするなんて許せない!」

「いや,でも,だって,」
健は妙に慌てた.
許せないも何も……,すでも何度も口付けを交わしていたりするのだが.
しかし,まさかそんなことをアリアに向かっては言えない…….
「……リルカはキスしてもいいって思っているぜ.」
健はアリアの顔から視線をそらしつつ言った.

するとアリアはぶすっとすねた顔になる.
「……思ってないわよ,」
そうして律儀に寝たふりを続けるリルカに向かって問う.
「思ってないですよね,姫様!?」
こうなると健としても負けられない.
「キスしてもいいよな!? リルカ!」

……これはいったいどうすればいいのだ?
リルカはそっと琥珀色の瞳を開いた.
「俺のこと,好きだよな!?」
想像した以上に真剣な健の顔が眼の前にあり,リルカの顔がぼっと赤くなる.

その反応を自分の好き勝手に解釈して,健はリルカに抱きついた.
「俺も好きだぁ!」
「きゃぁ!?」
「姫様に何をするのよ!?」
ごい〜ん!
瞬間,なぜか舞台の上からたらいが降ってきて健の頭に命中した!

リルカに覆い被さったまま,健は伸びてしまう.
「な,何これ……?」
リルカとアリアはあっけにとられて,降ってきたたらいを見つめた.
「いいタイミングだろ!? アリア!」
舞台の上を見上げると,ファンとユーティが手を振っていた.

「はぁぁ……,」
アリアは呆れたように長いため息を吐いた.
「これ,捨てて帰りますか? 姫様.」
意識なく倒れている健の姿を指して訊ねる.
するとリルカは頬を染めて,俯いた.
「……ちゃんと持って帰る.」

結局,この二人は想いあっているのだ…….
アリアは呆れたように肩をすくめた.
「持って帰ってもいいですけど,お持ち帰りはされないようにしてくださいね.」
リルカは意味が分からずに,きょとんと幼馴染の顔を見返した…….

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