ココロ,てるてる.


昨日,幼馴染のまぁちゃんに告白をした.
まぁちゃんは真っ赤な顔をして,そして何も答えてくれなかった.

夜の月がとてもきれいで,泣きたくなった…….

「みやちゃん,帰るよ.」
ホームルームが終わると,学生服を着たまぁちゃんがいつもどおりに私を迎えにきた.
まぁちゃんは隣のクラスの男の子だ.
柔和な顔立ちをして,ひそかに女の子たちに人気があることを本人は知らない.
「あ,うん.待ってよ.」
私は急いで鞄を持って,教室を出た.

私たちは中学3年生だ,こうやって一緒に帰るのもあとわずか.
「まぁちゃんはどこの高校を受けるか決めたの?」
落ち葉舞う通学路,私は遠慮がちに訊ねた.
「うん.やっぱりあそこの高校にするよ.」
まぁちゃんはにっこり微笑んで答えた.
「大阪で音楽科のある公立高校ってあそこしかないし.」

「そっか,がんばってね.」
音楽の道に進みたいまぁちゃんと私とでは同じ高校に入れない.
「それはこっちの台詞だよ.」
するとまぁちゃんは少し怒ったように言ってきた.
「みやちゃんこそ,うちの中学期待の星なんだから.」
「そんなオーバーな…….」
私は笑って答えた.

私の受ける高校は,私立も公立もかなり偏差値が高いところだ.
勉強しかとりえが無い,それが私だ.
「みやちゃん,今日も寄ってくだろ?」
嬉しそうに聞くまぁちゃんに向かって,私は適当に頷いた.

勝手知ったるまぁちゃんちにあがると,私はいつもどおりにリビングのソファーに腰掛けた.
「まぁちゃん,おばさんは?」
するとぎくっとしたようにまぁちゃんは答えた.
「母さんは高校の同窓会に行ってる,今日は遅くなるんだってさ.」
そしてまぁちゃんはリビングに置いてあるピアノに向かう.
楽譜をぱらぱらとめくり,目当ての曲を探し出す.

私も昔まぁちゃんと一緒にピアノを習っていた.
辞めずにずっと続けていればよかったのだろうか…….

まぁちゃんがピアノを練習する横で,私はテーブルで勉強をする.
それが私の日課だ.
でも今日は鞄の中から教科書を出す気になれない.
私は2人掛けのソファーにごろんと横になった.

まぁちゃん,ピアノ上手だなぁ…….

昨日,幼馴染のみやちゃんに告白をされた.
夜の月がみやちゃんを照らしていて,とてもきれいだった.

僕はみやちゃんからの告白にすっかり浮かれてしまった.
なにやら自分でもわけのわからないことをもごもごと言った後で,みやちゃんにキスをしようとしてしまった.
するとみやちゃんは泣きそうな顔で僕の方を見た.

あれは完璧な拒絶だった…….
なぜならみやちゃんの中で僕は男ではない.
乱暴にピアノの鍵盤を叩きながら,僕は昨日のことを考えていた.
この女顔がいけないのだろうか.

ふとみやちゃんの方を見ると,無防備にソファーで寝転がっている.
みやちゃんとは子供の頃からの付き合いだ,家族ぐるみで仲がいい.
でもいくらなんでも,これは無いだろう…….
僕はピアノを弾くのを止めて,みやちゃんの傍に向かった.

僕は頭が悪い,学年で1位2位をいつもキープしているみやちゃんに比べて,僕の成績は下のほうだ.
ピアノだってすごく好きだけど,うまいわけでも才能があるわけでもない.
普通科の高校に行けと,親も学校の先生も言っている.

昨日は満月だった.
今日もきっと空には丸い月が上がっていることだろう.
僕はしげしげとみやちゃんの安らかな寝顔を見つめた.

満月の夜は犯罪が増えるらしい.
だから僕だって,ちょっとくらい罪を犯してもいいだろう…….
まだ誰も触れたことの無いみやちゃんの柔らかな唇に,僕は親指を押し当てた.

昨日,幼馴染のまぁちゃんに告白をした.
今日,幼馴染のまぁちゃんはあまりにもいつもどおりに私に接してきた.

夜の月がとてもきれいに私たちを照らしていたのに,私の恋は実らなかった.

ふと目を覚ますと,なんだか怖い顔をしたまぁちゃんの顔が間近にあった.
「ど,どうしたの?」
正直びっくりした.
するとまぁちゃんは長いため息を吐いた.
「みやちゃんさぁ,分かっている?」
そうして怒ったように私に言う.
「今この家には僕以外誰もいないんだよ.」

「ご,ごめん…….」
なんだかよく分からないが,とりあえず私は謝った.
そして起き上がろうとすると,まぁちゃんに乱暴に押し戻された.
「今日も満月だよ,みやちゃん.」
私の両肩を掴んで,まぁちゃんは言った.

私はこくこくと頷いた.
真剣な顔のまぁちゃんにだんだん怖くなってきた.

昨日,幼馴染のみやちゃんに告白をされた.
でもみやちゃんの好きと僕の好きとでは種類が違う.

今だって泣きそうな顔で僕を見つめている.
夜の月が僕の心を照らし,欲しいものを手に入れろと誘惑する.
みやちゃんの瞳にたまった涙は今にも流れ落ちそうだ.

僕は自分の中の理性を必死に働かせて,みやちゃんの身体を離した.
「みやちゃん,帰りなよ.」
僕はソファーで押し倒されたまま固まっているみやちゃんから視線を逸らしていった.
「はやく帰らないと,好きでもない男に襲われるよ.」

昨日,幼馴染のまぁちゃんに告白をした.
そして今,まぁちゃんは怒っている.

「ごめ,なさ……,」
涙が込み上げてきた.
嫌われた,私まぁちゃんに嫌われた.
あの告白はまぁちゃんにとって本当に迷惑だったんだ.

昨日,幼馴染のみやちゃんに告白をされた.
そして今,僕はみやちゃんに振られたらしい.

「こちらこそごめんね,みやちゃん.」
泣かせたいわけじゃない,なのにみやちゃんは僕のせいでざめざめと泣いている.
「僕はみやちゃんのことが好きだけど,みやちゃんはそうじゃないだろう?」
するとみやちゃんは驚いた顔をして,こちらを見つめてきた.

「わた,私昨日告白したじゃない…….」
半分以上泣き声で,みやちゃんは言った.
「でもみやちゃんにとって,僕は単なる幼馴染だろ?」
だからあんなにも無防備に眠れるんだ.
それに告白といっても,今までと同じようにってみやちゃんは言っていた.

「違うもん!」
みやちゃんはぶんぶんと首を振った.
「一生懸命に告白したのに,聞いてなかったの!?」

昨日,幼馴染のまぁちゃんに告白をした.
違う高校へ行って離れ離れになっても,今までと同じように会いたいと…….
私はまぁちゃんのことが好きだから.

優しい月の光が私の背中を押して,まぁちゃんに告白する勇気をくれた.

「だってその後,みやちゃんキスを嫌がっただろ!?」
するとまぁちゃんも怒ったように怒鳴りだす.
「それにみやちゃんは僕のことを男扱いしていない.」
いったいいきなり何の話なんだろう.
キスなんてされたことは一度も無い.

私の頭はだんだん混乱してきた.
なぜ今二人喧嘩調で言い争っているのか,分からなくなってきた.
「わた,わた,私は……,」

月が私の心を照らし出す.
素直に好きだと告げればいいと…….

私はすぅっと深呼吸をした.
そして怒った顔のまぁちゃんに向かって微笑んでみせる.
「私,まぁちゃんのことが好きだよ.」
「でも,」
何かを言いかけるまぁちゃんを制して,私は言った.
「私の幼馴染ではなく,恋人になってください.」

そうしてまぁちゃんに向かって,ぺこりとお辞儀をした.

昨日,幼馴染のみやちゃんに告白をされた.
そして今日も…….

お辞儀をしたみやちゃんは,にっこりと笑った.
涙が晴れて,月が真円を描く.

その笑顔を見て,僕は自分がいかにピエロであったかを知った.
「僕もみやちゃんが好きです.」
みやちゃんの柔らかい瞳を見つめて僕は言った.
「いつか僕のものになってください.」
そうして驚くみやちゃんには構わずに,みやちゃんの身体を抱き上げた.

「でも今はまだ狼にはなりませんので,怖がらないで下さい.」
するとみやちゃんはきょとんとした顔をした後で,笑ってくれた.
「まぁちゃん,大好き!」
いきなり頬にキスされて,僕はみやちゃんの身体を落としそうになった.
しっかりとみやちゃんの身体を抱きしめて,二人笑いあう.

外ではきっと月がおかしそうに微笑んでいるのだろう.

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