座り心地のいいソファーでひざを抱いて,漆黒の髪の少女は夫が部屋へと帰ってくるのを待っていた.
いや,むしろ待ち構えているのかもしれない.
黒い液体の入ったマグカップを手に持って…….
ドアが開いて,現れる銀色の影.
「マリ君,おかえりなさい!」
少女はぱっと輝くような笑顔を見せた.
「た,ただいま,アスカ.」
臆面のない笑顔の直撃を受けて,少年は照れた.
「はい,チョコレート!」
少女の差し出す謎の液体に少年は首をかしげる.
「バレンタインスペシャルということで,特別に地球から持ってきたの.」
実は異性にチョコレートをあげるというのは,少女にとっては初めての経験だ.
「飲んで.」
少女はにこにこと上機嫌だ.
「甘いわよ.」
しかし少年は未知の黒いどろどろした液体に戸惑っている.
少年がなかなかカップに口をつけないでいると,少女はいきなり少年の手からそれを取りかえした.
ぐいと一口だけ飲んで,びっくりする少年の胸倉をつかんで口付ける.
口中に広がる甘い味…….
チョコレートとやらの味よりも,格段に甘いような気がする.
「おいしかった?」
そっと囁かれて,少年は顔を真っ赤にした.
「甘かった…….」
「じゃぁ,いっぱい飲んでね,」
再び差し出されたカップを受け取って,
「うん…….」
少年は少女の唇に口付けた.
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