ツティオ公国プレゼンツ!


昔々,あるところに,シンデレラというかわいそうな孤児がおりました.

「シンデレラ,」
金の髪の少女はたどたどしく台詞をしゃべる.
「私たちがお城のパーティに行っている間に掃除をしておくのよ.」
対する漆黒の髪の少女はくすくすと笑いながら答える.
「はいはい,意地悪な継母様.」

「お姉ちゃん,棒読みすぎるよ…….」
意地悪なお姉さん役のヒロカが呆れたようにため息を吐く.
「そうそう,もっと意地悪にしなきゃ駄目じゃない.」
いじめられる立場であるシンデレラでさえも,こんなことを言う.
「お姉ちゃんには無理なんじゃない?」
同じく意地悪なお姉さん役であるフローリアは肩をすくめた.

「な,何よ! 文句あるの!?」
周りから責められて,カリンは顔を赤くした.
そもそもこの馬鹿正直で素直な少女に演技など無理なのだ.
「えぇっとぉ,」
それでも,金の髪の少女は律儀に芝居を続けようとした.
……だが,

「お姉ちゃん,台詞を忘れたの!?」
小声で妹が問いかける.
「えっとぉ〜〜,」
図星であった…….

******************************

お城のパーティで王子様はシンデレラと恋に落ちました.
しかしシンデレラは深夜0時には魔法が解ける運命…….

「というわけで,マリ君.」
銀の髪の少年の腕の中で,少女は器用に履いていた靴を脱いだ.
「これがガラスの靴,私だと思って持っていてね.」
少年は心から不思議そうな顔をした.

こんな靴を愛しい少女だと思えるわけがない.
そもそも少年はシンデレラのストーリーをよく知らなかった…….

「バイバイ!」
漆黒の髪の少女は,少年の腕の中からするっとすり抜けた.
「え? アスカ,どこへ行くんだ!?」
少年は慌てる,さっきまでいつもどおりにいちゃいちゃしていただけなのに,なぜいきなりさよなら,なのだ?

ガシャーン…….
少年は手に持ったガラスの靴を落として割ってしまった…….
ガラスの割れる音を聞いて振りかえった少女は,仕方無しにもう片方の靴を脱いだ.

*****************************

王子様はいなくなったシンデレラを探すために,ガラスの靴を履ける女性を探します.
しかしシンデレラはけっこう靴のサイズが大きいため……,

「え!?」
カリンはぎょっとした.
話の都合上,明日香よりも先にガラスの靴を履いてみたのだが,カリンの方が足のサイズが小さいために,ガラスの靴に足が入ってしまったのだ.
金の髪の少女と銀の髪の少年は困ったように視線を合わせる.

お芝居なのだから,履けない振りをすればいいだけなのだが,この馬鹿正直×2の王族には通じないらしい.
「ど,どうしよう,陛下……,じゃない,王子様.」
「どうしようじゃありませんよ,カリン様.」
すると苦虫を100匹ほど噛み潰したような顔で,王子様の従者役のコウリが答える.

「あなたはすでに私に売約済みでしょう?」
と言って,コウリはカリンを荷物のように抱き上げた.
「コウリ!?」
金の髪の少女は真っ赤になる.
普段は何も言わないくせに,この青年はこうゆうときにはきっちりと自分の意思を通すのだ.

幼馴染の青年に連れ去られて行くカリンを,舞台の上に立つ少年少女たちは呆れたように見やった.
「物語のオチをとられちゃったね,マリ君.」
少年の腕をつんつんとつついて,漆黒の髪の少女が楽しげに笑う.
物語のオチ? 少年は不思議そうな顔をした.

「まぁ,いっか.」
少女は晴れ晴れと笑んだ.
「お城まで連れていってね,私の王子様!」
戸惑う少年の頬に軽くキスをして,物語はいつだってハッピーエンドで幕を閉じるのだ.……今回はかなり強引に.

||| ホーム |||


Copyright (C) 2003-2005 SilentMoon All rights reserved. 無断転載・二次利用を禁じます.