その日の王妃様は,夕食時に王様が謝るまで一言も口を聞かなかったそうです.

ツティオ公国の平和な朝,
「マリ君,おはよう!」
いまだ半分夢の中にいたところを王様は王妃様に叩き起こされました.
「……おはよう,アスカ.」
そのまま王妃様はベッドの中の王様に抱きついてきました.
すりすりとペットが主人になつくように,胸の中で甘えてきます.

そして何かを期待するような目で王様を見つめています.
王様はとりあえず,軽く触れるだけのキスをしました.
しかし王妃様は,まだもの欲しそうに王様の青の瞳を見つめています.
王様は今度はしっかりと王妃様に口付けを贈りました.

「マリ君,今日だね!」
王妃様の台詞に王様は首を傾げました.
王妃様が何について言っているのか,分からなかったからです.
「私ね,プレゼントはいらないから,……でもちゃんとお祝いしたいな.」
王妃様は一人でなんだかうきうきしています.
「だって初めてだし,……マリ君?」
やっと王妃様は,王様が気持ちを共有していないことに気づきました.

王様は,一生懸命に頭を巡らせます.
今日は何かのお祝いの日だったのでしょうか?
「もしかして,今日が何の日か分からないの?」
王妃様は顔を険しくして問いました.
王様は情けなさそうに笑顔を見せます.
「ごめん,アスカ.今日は何かあったっけ?」

すると王妃様の機嫌が一瞬で悪くなります.
「分からないの!?」
王様は王妃様のすねた顔は初めて見た,かわいいなぁと的外れなことを思いました.
「信じられない,大切な記念日なのに……!」
王妃様は枕を掴んでわななきます.

「すまない,何かヒントを,」
「マリ君のばかぁ!」
王妃様は王様に枕を投げつけました.
そしてそのままベッドからすべり降ります.
「もう,今日一日マリ君とは口を聞かないから!」
まるで子供の喧嘩のような捨て台詞を残して,王妃様は部屋から出ていってしまいました.

後に残された王様はがーーーんとショックを受けて,王妃様が出ていったドアの方を見つめました.
……今日はお二人のはじめての結婚記念日だったのですけどね.

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