太陽は君のもの!


第二十四章 自責の念


「どうしてこうゆう結論になるの!?」
明るく輝く金の髪を震わせて,カリンはマリに詰め寄った.
傍では,妹のヒロカが口論をする姉といとこの少年を心配そうに見つめている.

「カリン,聞いてくれないか?」
銀の髪の少年は,思いつめた顔でしゃべった.
「いつかアスカが氷付けになったときがあっただろう?」
もちろん,覚えている.
帝国の若き工作員シキの魔法によって凍った少女.

自分たちと同世代とは思えない愉悦に満ちた顔で,少年は交渉を持ちかけた.
サキル殿下を返してくれませんか? あなたの妃と交換です.
少年の緑の瞳は,純粋に楽しげだった.
つまり国を取るか,彼女を取るか,二者択一です.
「私はあのとき,アスカよりも国を取ったんだ.」
「陛下…….」
カリンは,なんと言っていいのか分からない.

「結局,王家の石の共鳴によって救い出したけれど,あれだって助かる確証なんてなかったし,むしろ失敗する可能性の方が高かった.」
まるで言い訳をするかのように,少年は自身を責める.
「だから,今度は国ではなくアスカを取るというの!?」
カリンは唇をわななかせて叫んだ.
「そんなの勝手よ! 無責任よ!」

「カリン!」
すると少年にしては珍しく声を荒げる.
「アスカが襲われたのは,私が王だったからだ!」
「だからって……!」
バシィンと音を立てて,カリンはマリの頬をぶった.
ヒロカが痛そうに,銀の髪のいとこの少年を見つめる.
「マリが王位を捨てても,なんの解決にもならないじゃない!」
うっすらと目に涙をにじませて,カリンは言った.

「違う,私が悪いんだ! 私がアスカも国もなんてわがままを言っていたから,付け込まれたんだ!」
国も彼女も……ですか?
あのときのシキの微笑,もしかしたらあのときに少女を襲う計画を立てたのかもしれない.
国王である自分の激情を誘うために……!
背筋に悪寒が走るのを感じて,少年はぞっと自分の肩を抱いた.
「悪いのは,帝国からの使者でしょう!?」
自分を責める少年に,かっとなってカリンは言い返す.

「悪いのは私ですよ,陛下,カリン.」
言い争う甥と姪の間に入って,やんわりとした口調でしかし,きっぱりと青年が告げた.
いつの間にやってきたのか,……青とも緑とも言い切れない瞳を持つ,二人の叔父のアカムである.
「こんなところで言い争っていて,アスカに聞かれても知りませんよ.」
アカムは悲しげな顔を隠すように,苦笑した.

はっとして少年と少女は部屋の扉の方に顔を向ける.
しかし二人を安心させたことに,扉は微動だにせずに沈黙を保っていた.

「陛下,前に言いましたよね?」
優しく,アカムは甥である少年に言った.
「もっと周りに甘えていいと.」
マリは不思議そうに叔父を見つめる.
「陛下,王位を私に譲るという陛下の提案を半分だけ受け入れます.」

叔父は少年の前に膝をつき,まっすぐに少年の青の瞳を見つめ返した.
「ただし必ず帰ってきてください,この国を一時お預かりするだけですから.」
叔父といとこのやり取りに,カリンとヒロカは驚いて顔を見合わせた.

ヒロカ,私と一緒にガトー国へ行かないか?
私は王であることを捨てるつもりだ.
何かがおかしい,何かが変ではないか……?
ベッドにごろんと寝転がりながら,明日香は考えた.
しかしすぐにもやがかかったように,思考の糸が途切れてしまう.

少女は食べ終わったスープの皿を食堂に返そうと考え,ベッドから立ち上がった.
とはいっても食べきってはいない,一口二口すすっただけだ.
途端にふらっと立ちくらみをおこす.
ベッドの脇のサイドテーブルに手をつき,暗い視界に光が回復するのをしばし待った.

銀色の髪が,お日様のように輝いている.
優しい青の瞳が,お日様のように暖かい.
私をいつか,違う世界へと…….

視界がクリアになり,足元がしっかりとしたのを確認してから明日香は,食べ残しの皿を持って部屋から出た.
いつもいつも食事を残して,申し訳ない気持ちでいっぱいだが本当に食欲が無いのだ.

扉を開けると,そこには不機嫌そうな顔の姉がいた.
廊下でただ一人,少女を待っていたらしい.
「私もついてゆくからね,ヒロカ.」
「え?」
カリンの台詞に明日香はきょとんとして,返事を返す.
「陛下に一緒にガトー国へ行くように誘われたでしょ? だから……,」

みるみるうちに,漆黒の髪の少女の顔が赤くなる.
少女の照れた顔にこちらまで,恥ずかしくなってしまう.
「……私とサイラと,それとコウリがついてゆくからね! コウリが城に帰ってくるまで出発は延期よ.」
明日香はふと首をかしげた.
前にもこのメンバーで旅をしたような……?

マリ君,当然私もついてゆくからね!
すると銀の髪の少年は困った顔をして,青の瞳を瞬かせたような気がする…….

「分かった? 勝手に二人だけで出発しないでね!」
「う,うん…….」
念を押す姉に,あやふやな表情で明日香は頷いた.

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