太陽は君のもの!


第九章 旅の仲間


「陛下のお考えは分かりました…….」
王の執務室で,亜麻色の髪の青年は渋い顔をして言った.
「分かりましたが,私は反対です.」

すると少年はいたずらっぽく笑った.
「サキル叔父上をおびき出すのに,一番有効なのは私だろう?」
呆れたように,コウリは答えた.
「確かにそうですが,陛下自らが囮になってどうするのですか!?」

確かに王である少年が警備の厳重な城から出れば,彼の叔父は少年の暗殺に乗り出すだろう.
帝国も戦争を起こすよりもずっとそっちの方が楽だ.
少年を殺し,サキルを王位につかせる.
そうして流血ではなく婚姻によって,ツティオ公国を手に入れるのだ.

一方,少年の方でもただサキルを捕らえるだけでよいのだ.
サキルさえいなければ,帝国は現在のところ友好国であるツティオ公国へ攻め入る口実を無くす.
まさに少年にとっては自分の生命をかけた賭けであった.

「どの道,戦渦は免れるだろう.」
得意そうに,若すぎる王は言った.
この少年にとって,自身の身の安全などまったく価値が無いのだ.
「というわけで留守を頼む,コウリ.」
するとコウリは年下の主君をきっと睨んだ.
「お断りします.陛下の意思が固いのなら,私は陛下についてゆきます.」
そうして優しく微笑む.
「私の主君はあなただけですからね.留守はサイラに頼んでください.」

次に呼び出された同じく亜麻色の髪の少年は,不平満満に言い募った.
「やだよ,俺を置いてゆくのかよ!?」
そして銀の髪の少年を驚かせることを言った.
「だいたいアスカだってついてゆく気だぜ,なのに俺だけが留守?」
「え?」
少年はその青の瞳を瞬かせた.

最後に呼ばれた少女は,少年の話を聞く気は最初からまったく無いらしかった.
「マリ君,当然私もついてゆくからね!」
「でもこの旅は本当に危ないんだ……,」
ふと少年は少女が腰に剣を帯びていることに気づいた.
「アスカ,それ……,」
「ならなおさら,私を置いていかないで.」
そうして真剣な顔で,少女は少年を見つめた.

しかしマリとしても折れるわけにはいかない.
「頼む,アスカ.城に残っていてくれ.」
その青の瞳を見て,少年の意志が固い事を少女は知った.

それならそれで別の手段がある…….
少女はおもむろに,こつんと少年の額と自分の額をぶつけた.
そうして至近距離で少年の澄んだ青の瞳を覗きこむ.
「マリ君,私を一人にしないで…….」
するとみるみるうちに少年の顔が赤くなる.
そっと少年の両肩に手を置いて,耳元で甘く囁く.
「一緒に居たいの,だから……,」

少年に迫る少女を,呆れたように亜麻色の髪の兄弟は眺めた.
「なぜ,こうゆうときだけ積極的なんだよ…….」
と弟がぼやくと,兄が情けなさそうに受ける.
「なんか,陛下はもてあそばれていないか?」
妙に色気のある少女に彼らの主君はたじたじになり,ついには少女の同行を認めてしまった…….

まだ少し赤い顔をなんとか収めながら,銀の髪の少年は兄弟の方を向いて言った.
「それでは,すぐに出発しよう.」
「ちょっと,待ったぁ!」
勢いよく扉が開いて,4番目の客人が部屋に飛び込んできた.
金に輝く髪,それよりも強い光を放つ青い瞳.
「私も連れて行ってよ!」

「……カリン.」
少年は困ったようにその少女の名を呼んだ.
「カリンにはリリア伯母上と一緒に留守を頼みたいのだが……,」
するといとこの少女はきっと少年を睨みつける.
「どうしてアスカはよくて,私は駄目なの!?」

そこを突かれると少年としては弱ってしまう.
「それとも,私も色仕掛けで……,」
すると漆黒の髪の少女が二人の間に割り込む.
「妻の目の前で旦那をくどかないでくれる!?」
自分の台詞に少し照れながらも,少女は精一杯喧嘩腰で言った.
「何が妻よ!? ……てゆうか,あなた,なんて格好をしているのよ!?」
そして肝心の少年はそっちのけで二人で言い争う.

「こっちの方が動きやすいもの,なんか文句あるの!?」
少女は相変わらず,まるで少年のような軽装だ.
「それ,マリの服じゃない!? 信じられない,なんてはしたないの!?」
「え? これはケイカさんが用意してくれて…….」
するとサイラが余計なことを言う.
「ちなみに今着ている紺のベストは,兄ちゃんのお下がりだぜ.」

「サイラ,うるさい!」
カリンはぎっと,サイラを睨みつけた.
「お〜,怖…….」
サイラは楽しげに王族の少女をからかう.
「陛下,止めてください.」
いいかげんたまりかねて,コウリがマリに言った.
「これを止めるのは,陛下のお役目ですよ……多分.」

仕方なく少年は,おそるおそる二人の少女の説得を試みようとした.
「アスカ,カリン……,」
すると少女達は同時に少年の方を向いて声を荒げた.
「マリ君は,黙っていて!」
「マリは黙っていて!」

次の朝の早朝,まだ日の昇りきっていない時刻に城から5人の若者たちが旅立った.
旅立つ彼らを見送るのは,優しいブルーグレーの瞳をした貴婦人である.
「陛下,お気を付けて…….」
「リリア伯母上,留守を頼みます.」
暖かな朝日を背に受けて,少年は微笑んだ.
「いいのですよ,陛下……それから,カリン.あまり陛下にご迷惑を掛けないのよ.」
するとカリンは照れたように,またバツが悪そうに答えた.
「はぁい,お母様.分かりました.」

「アスカ.」
後ろに控える少女に向かって,少年は微笑んだ.
「コウリ,サイラ.」
そうしてその少女の両側に立つ亜麻色の髪の兄弟に向かって呼びかけた.
「カリン.」
最後に隣に佇む少女の名を呼んでから,少年は歩き出した.
「行こう…….」
サキル叔父上を探しに…….

この国を守るために…….

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