赤ずきんinツティオ公国


明るく輝く銀の髪,それよりも光を放つ青の瞳.
……そして真っ赤なずきん.
「……陛下.」
隣に立つ亜麻色の髪の青年はなんとコメントをしていいのか分からずに,とりあえず主君に呼びかけた.
「いや,何も言わないでくれ.コウリ.」
銀の髪の少年は恥ずかしげに頼んだ.

「作者からアスカがやったらしゃれにならないじゃんと言われて,私が主役の赤ずきんなんだ.」
妻を盾にとられると,この少年としては言うことを聞かざるを得ない.
しかし4,5年前ならともかく,17歳ともなると女装など不気味なだけだ.

「それでは,とりあえず行ってくるよ.」
いまいち赤ずきんのストーリーも知らずに少年は旅立った.
「お気をつけて,陛下.」
愛する少女のためなら女装も厭わないのか……,コウリは半分感心して,半分呆れて少年を送り出した.

暗い森の中を少年は一人で歩いた.
作者から赤ずきんなる少女が狼に襲われる話だと聞いていたので,腰には剣を帯びている.
途中,綺麗な花畑があったが,マリはストーリーを知らないので素通りした.

すると後ろから人の駆ける音がする.
腰の剣に手をあてて,少年は鋭く振り向いた.
しかし,やって来たのは,
「アスカ!?」
狼の扮装をした漆黒の髪の少女が,少年の胸の中に飛び込んできた.

そのまま,どぉと少年は少女とともに背中から倒れてしまう.
「アスカ? いったい何を?」
「……マリ君.」
少年の上に乗っかり,少女はうるうるした目で少年を見つめた.

「マリ君,私,狼役なの.」
それとこの行動になんの関係があるのか分からないが,少年は真っ赤な顔でうなづいた.
「だからマリ君を襲わないといけないの.」
そう言って,少女は頭をこつんと少年の胸に預けた.

「ア,ア,アスカ!?」
華奢な少女の肩を抱こうとして,マリは自分の胸に置かれた少女の指先が震えていることに気づく.
「さ,作者!」
天に向かって助けを求めても,作者はもちろん何もしない.

「アスカ,そんなお芝居の通りにしなくてもいいから.」
少年はなだめるように少女に向って言った.
すると少女は艶やかな漆黒の瞳で見上げてくる.
「嫌?」
少年は真っ赤になって,少女の顔から視線を逸らした.

……もちろん,嫌じゃない.
しかし,困る.
そんな震える指先で誘惑されたら…….

しかも少女がこんなことをするのは自分に対してだけだと分かっているから,さらにたちが悪い.
拒絶されると分かっていても,その頼りなげな身体を抱きしめたくなってしまう.

少年が手を伸ばしかけた瞬間,
「こら! 何をやっているのよ!」
マリにとってはまさに天からの助け,おばあさん役のいとこの少女がやってきた.
「マリから離れなさい!」
カリンはべりっと明日香の体を少年から引き剥がした.

「陛下も無抵抗すぎるよ.」
亜麻色の髪の少年は狩人役だ.
「即効で狼にやられてどうするの!?」
サイラはあきれたように肩をすくめた.

銀の髪の少年,今は赤ずきんちゃんだが,はずきんの色に負けず劣らず赤い顔をして言葉に詰まった.
すると金の髪の少女に抱かれながら,明日香はにこっと微笑んだ.
「マリ君,女装,かわいい.」

その何気ない言葉,もしかしたらほめ言葉か? に少年はかなり本気で傷ついた.
見ると,サイラもカリンも吹き出しそうになるのを必死でこらえている.
少年はがっくりとうなだれた…….

ツティオ公国暦27年,第3代国王マリの治世4年目.
世にも珍しい「男性は女装を拒否することができる.」という法律が作られたのは,国王若かりし頃のこのような出来事による…….

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