異世界純愛ファンタジーシリーズ

王子様を落とせ! 裏ver.


「俺は落とされたことはない.」
不機嫌丸出しの声で,セイは答えた.
落とされた自覚のある少年二人は,微妙な顔を互いに見合わせる.
「セイさんは,サラさんをどうやって落としたのですか?」
ある意味怖いもの知らずなマリが,無邪気に訊ねる.
落とされていないということは,落としたということである,……多分.

「お前には関係ない.」
それよりも誰だ,お前は,とセイは視線で問いかける.
マリは,明日香命名,必殺のお日様スマイルで笑った.
「私はマリ・ツティオです,ツティオ公国から参りま,」
「なっ!? ツティオ公国国王!?」
隣国の主に,セイはぎょっとする.
だいたいこの場はいったい何なのだ?
なぜ国王が二人もこんなばかばかしい企画に付き合っている?

暇なのか,忙しくないのか!?
エンデ王国とツティオ公国は!
「我が公国は,のどかでのんびりとした所ですよ.」
どこかのん気そうに見えるマリの笑みは,けれどやはり国王らしい深みを備えていた.
「機会があったら,ぜひお越しください.」
ツティオ公国国王が,エンデ王国国王を誘う,……ある意味で,いや,どんな意味にとってもすごい光景である.
「ありがとうございます.」
ガロードは少し遠慮がちに微笑んだ.

まっすぐに見つめてくる青の瞳.
色は違えども,それはガロードの妻の水鳥にそっくりだった.
少年二人は,友好的な握手を交し合う.
どうやらボケ担当らしい少年二人に,突っ込み担当にならざるを得ない青年はどっと疲れを感じる.
どうしてこの異常な状況に順応できるのだ.
それともこれをおかしいと感じる俺の方がおかしいのか!?

もしもこの場に居たのが自分ではなくサラならば,何の疑問も抱かずに溶け込んでいただろう.
そう思うと,さらなる疲労がセイを襲うのであった…….

***あなたの奥さんor恋人を紹介してみてください.***

「え? ミドリですか?」
紺の髪の少年は戸惑う.
しばらく考え込んだ後で,
「……女性です.」
当たり前だろ! と突っ込みたくなるのをセイは必死に堪え,マリは少し笑顔がひきつった.

***あなたの奥さんor恋人を紹介してみてください.***

セイはナチュラルに質問を無視した.
天然ガロードはお茶をすすり,苦労性マリはとりあえず場を繕う.

***あなたの奥さんor恋人を紹介してみてください.***

「お断りします.」
にっこりと微笑んで,銀の髪の少年はきっぱりと断った.
鈍感ガロードは不思議そうな顔をし,セイは,案外この手のタイプが一番タチが悪いのかもしれないとため息を吐く.

***仲はいい方ですか?***

「……はい,だと思います.」
純情ガロード,しかし手は早い方だと思う,は照れながら答える.
「……良かったですね.」
セイは答える気はさらさら無い.
「うらやましいです,私の方は普通だと思いますよ.」
バカップル一族のマリは,あれが普通だと思っている.

***異世界『地球』についてどう思いますか?***

「一つ一つの星に名前が付いているらしいですよ.」
ロマンチスト明日香は星が好き.
「ミスドとモスという,子供向けの菓子があるらしい.」
だからダイエットが成功しないんだよ,サラは.
「魔法が存在するから,この世界ではサンギョーカクメーが起こらないかもしれないと言われたことがあります.」
優等生水鳥は,堅苦しい.

「寒い夜には,サンタクロースという魔物が子供を襲いに来るらしいです.」
マリは明日香の話を曲解している.
「あとゴフンと口にすると,何か魔法が発動するらしい.」
朝に弱いサラの口癖は,あと五分寝かせて.
「男性はネクタイという衣装で,主君に仕えるらしいです.」
時代錯誤な明日香の夢はきっと,いってらっしゃいのキスと「あら,あなた,ネクタイが曲がっているわよ.」だ.
「新年の祝いにジョヤという名の鐘をつき,なぜか貨幣を投げるらしい.」
サラの中では,仏教と神道,お寺と神社がごちゃまぜになっている.

どこか間違っているような気がする,異世界に一番詳しいガロードはそう感じたが,あえて何も言わなかった…….

||| ホーム |||


Copyright (C) 2003-2005 SilentMoon All rights reserved. 無断転載・二次利用を禁じます.