恋愛指南役2


私の好きな人はサッカー部の頼れるゴールキーパー.
のっそりとした熊のような外見に,意外に俊敏な動き.

「すまない,君の想いに応えることができなくて.」
今年のバレンタインには,勇気を出して手作りのチョコレートを手渡した.
「俺は本当に,……こうゆうのには疎くて.」
今日はホワイトデー,先輩に呼び出されて校舎裏まで来たものの……,

……どうやら,私は振られたらしい.
そもそも先輩はチョコをもらったとき,すごく嫌そうな顔をしていたし.
兄貴はめげずに,ホワイトデーまで待てって言っていたけど…….

「準備が遅れてしまい,いや,これはいいわけか……,」
涙がにじんできた.
もう,やだ.走って逃げ出したい.
「本当にすまない,最初に俺が,あのチョコは鈴木宛に渡してくれということかと勘違いしたのがいけなかった.」

私は先輩の顔をきっとにらみつけた.
「そんなことあるわけないでしょう!?」
確かにあの人はすごくもてるけど.
今年だってチョコレートは大漁よ!
「そ,そうだよな,鈴木にもそう言われた.」

「しかし,俺は本当にサッカーばかりで,バイトもしたことなくて……,」
私はそうゆうあなたが好きなのよ!
「ホワイトデーは十倍返しをしなくてはならないなんて知らなかったんだ.」
はぁ!?
「すまない,甲斐性のない俺を許してくれ!」
と言って,先輩はがばっとお辞儀をした.

「な,何を言っているのですか!?」
マジで何を言っているんですか,あなたは!?
「鈴木には少なくとも5,6万はするアクセサリーを用意しなくてはいけないと,」
「ちょっと待ってくださいよ!」
私は先輩の馬鹿丸出しのせりふをさえぎった.

「そんなことしなくていいんですよ!? 十倍返しなんて,先輩はだまされていますよ!」
すると先輩はきょとんとした顔をした.
大きな顔についている小さな目がぱちぱちと瞬きする.
「そ,……そうだったのか?」
拍子抜けしたように,呆然と声を出す.

「そうなんです!」
思わず腰に手をあてて,偉そうな態度で私は言った.
するといきなりぎゅっと抱きしめられた.
「よかったぁ…….」
頭上から,安心したような声が降ってくる.

あぁ,もぉ……,かわいいなぁ,この人.
「先輩は恋愛に疎くてもいいんです.」
広い胸に抱かれてうっとりしながら,私は言った.
「私がちゃんと教えてあげますから.」
気はやさしくて力持ちってよく言うけど,まさに先輩のためにあるような言葉だわ.

「だって,サッカーだって途中入部するまで何も知らなかったんでしょ?」
11人で試合をするとか,ロスタイムとは何かすら知らなかったと兄から聞いた.
「それが今じゃ,立派なチームの守護神じゃないですか.」
すると先輩は不思議そうな顔をして,私を見つめてきた.

「よく,知っているね……?」
もしかして俺ってばひそかに有名人? ってな顔をして先輩は聞いてきた.
「はぁ,兄からよく聞いていたので.」
「和美ちゃんのお兄さんはサッカー部なのかい?」
ん? 何を言っているのだ,先輩は?
ふと心づいて,私は先輩に聞き返した.
「先輩,私のフルネームは知っていますか?」

「鈴木和美ちゃんだろ?」
すると,一瞬にして先輩の顔は赤くなる.
「す,鈴木の妹!?」
「知らなかったのですか!?」
し,信じられない! 兄貴と結構仲がいいくせに!

「どうりで鈴木の奴,妙ににまにまとしながら相談に,」
先輩の顔は赤くなったり青くなったり,なかなかに忙しい.
しかし,そんなことよりも,
「なぜ兄貴なんかに相談を持ちかけたのですか!?」
どうりで兄貴が自信満々なはずだわ!
両サイドの悩み事を受け持っていたなんて!

「すまない! 本当に!」
と叫んで,先輩は走り出す.
「待ってくださいよ! 先輩!」
なぜ逃げるんですか? 恥ずかしいから? 情けないから?

てゆうか,なぜ,あなたと私が追いかけっこ!?

先輩が校舎の角を曲がる.
「うわぁ! 鈴木!?」
まるで化け物にでも出会ったような声を上げる.
「よぉ,熊谷.……あれ,どこに行くんだ?」
私も走って角を曲がる.
先輩はすでに兄貴からも逃げ出している.

「捕まえといてよ! 兄貴!」
私も急いで兄の横を走って通り抜ける.
すると,この,くそ馬鹿余計なおせっかい兄貴が声をかける.
「和美ぃ,あいつの恋愛指南役は大変だぞ!」

「あんたが余計な入れ知恵をするからでしょう!?」
走りながら叫ぶ.
息が切れる,先輩,足,速い!
さすがサッカー部.
「ちなみに熊谷は元陸上部の長距離ランナーだ!」

なんですってぇ!?
走り去る先輩の背中がどんどんと小さくなる.
「がんばれ,妹よ! ……まぁ,俺は手伝わないけどなぁ.」

兄の笑い声を背に,私は追いかけるのをやめようかと一瞬だけ思った…….

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